第123章 グローバル化と災厄
視界に現れたのは、2000年代の初頭。インターネットの光が街を覆い、携帯電話が人々の手に輝いていた。株式市場は再び熱狂に揺れ、グローバル資本の波が日本を飲み込んでいく。その光の裏に、やがて深い影が潜んでいた。
AIが低く告げる。
《失われた時代を抜け出そうともがく日本。だがグローバル化と災厄が、その歩みを試し続けました》
三井の視点 ― ITバブルの熱と崩壊
三井悠人の目の前には、2000年頃の証券会社のディーリングルームが広がった。
モニターに映るのは「インターネット関連株」。新興企業の株価は青天井のように上がり、若い投資家たちは歓声を上げていた。
「この会社、社員十人でも時価総額は数千億だ!」
「ネットが世界を変える!」
だがその熱狂は長くは続かなかった。2001年、株価は暴落し、証券会社のフロアは沈黙に包まれた。
「金が、煙のように消えた……」
顔を覆う投資家の姿に、悠人は震えた。
「祖先が築いた“信用”は、またも欲望にかき消される。形を変えて、同じ過ちが繰り返される……」
三菱の視点 ― リーマンショックの衝撃
岩崎達哉の視界には、2008年のニューヨークが映った。リーマン・ブラザーズのビルの前で社員たちが段ボールを抱え、無言で去っていく。ニュース速報が世界を駆け巡り、東京市場も混乱に陥った。
三菱系の銀行は国際金融に深く関与しており、取引先が次々と倒れていく。会議室では幹部が声を荒げていた。
「損失は数千億にのぼる。資本注入なしでは持たん!」
社員はただ頭を垂れ、指示を待つしかなかった。
達哉は胸を掴まれるように痛んだ。
「祖先が海を渡って築いた交易は、いまや国際金融という無形の嵐に翻弄されている……」
住友の視点 ― 東日本大震災の衝撃
住友美咲の視界は、2011年3月の東北に切り替わった。地震と津波が街を飲み込み、瓦礫の山と化した町に冷たい風が吹いていた。
「助けてくれ!」「家族がまだ……!」
絶望の声が響く中、住友系列の電力会社や化学工場も被災し、地域全体が機能を失っていた。
現場では、ヘルメットをかぶった若い社員が必死に復旧作業を進めていた。
「送電線をつなげ! 少しでも電気を!」
泥にまみれた手で工具を握り、彼らはただ必死に働いた。
美咲は涙をこらえた。
「祖先の技術は時に人を傷つけた。けれど、今ここでは命を繋ぐためにある。これこそが“技術の使命”だ」
三つの交差 ― 災厄と市民
視界に映ったのは、避難所の体育館。毛布に包まれた人々が肩を寄せ合い、冷たい床で夜を過ごしている。
「企業がどうとか、財閥がどうとか、そんなことは関係ない。ただ明日を生き延びる力がほしい」
老人の呟きは、三人の胸に深く刻まれた。
AIの声が響く。
《グローバル化の嵐も、自然の災厄も、人の営みを翻弄しました。財閥の末裔も一市民として、ただその波に呑まれる存在にすぎなかったのです》
次章への予兆
視界が揺らぎ、2010年代の光景が浮かんだ。スマートフォンを手にした若者たち、SNSの画面、そして拡散する情報の渦。
AIが告げる。
《次に訪れるのは情報化と格差の時代。名は忘れられ、富は再び偏在し、子孫たちは新しい現実に直面します》
三人は目を閉じ、次の時代を受け止める覚悟を固めた。




