第86章 沖縄:再び開く時空の門
呉の軍港の町並みを歩く有馬と秋月の耳に、遠く離れた沖縄からの報告が届いたのは、朝の光がようやく港を照らし始めた頃だった。大本営会議室で下された迎撃命令の重みが、二人の肩にずっしりと乗しかかる中、未来からの、そして過去へと繋がる新たな事態が動き始めていた。
そうりゅうが停泊する沖縄の港の片隅、辛うじて米軍の攻撃から逃れた臨時の指揮所では、数少ない電子機器が慌ただしく接続されていた。それは、「まや」から持ち出された高感度センサーと、米軍から鹵獲した旧式の無線機、そしてそうりゅうの予備部品から組み上げられた、即席の観測システムだった。この時代には存在しない精密機器を操るのは、未来の海上自衛隊の生き残り、情報科の女性通信士官、斎藤三尉だった。彼女は、目を閉じ、ヘッドホンから流れ込む微細な信号に全神経を集中させていた。
「艦長…来ます…!」
斎藤三尉の声は、緊迫していた。その顔には、疲労の色が濃いものの、一点の曇りもない真剣な表情が浮かんでいる。彼女の指が、計器のダイヤルを微調整する。ディスプレイに表示された波形が、不規則に脈動し始めた。
「再び、時空の歪みが検知され始めました!」斎藤三尉は、明確に報告した。「前回と同じパターン…場所も、ほぼ同じです!沖縄と九州のほぼ中間地点、かつて戦艦大和が轟沈したポイントです!」
その報告に、そうりゅう艦長は、思わず息を呑んだ。前回、彼らがこの時代にタイムスリップした、まさにその場所。そして、戦艦大和がその最後の戦いを終えた、歴史の特異点。
「間違いありませんか、斎藤三尉!」そうりゅう艦長の声に、緊迫が走る。
「はい!波形のパターン、エネルギーレベル、全てが前回の転移時と酷似しています!規模はまだ不明ですが…確実に、
指揮所にいた自衛官たちの間に、どよめきが走った。一度ならず、二度目のタイムスリップ現象。しかも、同じ地点で。
そうりゅう艦長は、その報告を聞きながら、ある確信に囚われていた。同じポイントにいけば、元の時代に戻れるはずだ。 彼らが偶然巻き込まれた時空の歪みが、再現されている。それは、この過酷な時代から、本来いるべき未来へと帰還できる可能性を示唆していた
そうりゅう艦長は、すぐに呉に入港しているイージス艦まやへの連絡を指示した。