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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン12

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第103章 近未来の問い




 視界が切り替わった瞬間、青年は異様な静けさを覚えた。

 そこは数年先の東京だった。だが、街のスクリーンには株価暴落と気候危機のニュースが並び、駅前の広場では食料価格の高騰に抗議する人々が声を上げていた。

 AIが低く囁く。

 《近未来、社会は再び不安に覆われています。人々は新しい“拠り所”を求め、血統の物語もまた、その候補のひとつに浮上するのです》


 群衆の中で、若者がスマートフォンを掲げ、SNSでライブ配信をしている。コメント欄には賛否が飛び交っていた。

 ――「やっぱり歴史の家系を復活させるべきだ」

 ――「もう血なんて関係ない。制度で解決すべき」

 青年は目を細めた。

 「祖先の物語が、再び政治の議題に戻ろうとしている……?」


 場面は議会に移る。討論の議題は「国民統合の象徴の必要性」だった。AIの解説が重なる。

 《共和制のまま進む未来と、“象徴”を再導入する未来。議論は現実の政治課題となりつつあります》


 議員の一人が立ち上がる。

 「グローバル化の中で、日本人としての共通のアイデンティティが揺らいでいる。歴史ある血統を再び象徴として用いることは、国民をつなぐ力となる!」

 反対側の議員が声を張る。

 「そんな過去の残滓に頼る必要はない! AI時代のアイデンティティは、血ではなく知識と多様性に基づくべきだ!」


 議場は騒然とし、傍聴席では賛否が入り乱れた。


 青年は胸を押さえた。

 ここで再び、祖先の名が「拠り所」として引き合いに出されている。それは誇りでもあり、重荷でもあった。


 場面が変わる。

 災害に見舞われた地方都市。避難所の片隅で、老人が孫に語りかける。

 「昔は天皇が国をまとめてくださったんだよ」

 その言葉に、孫は不思議そうな顔をしながらも静かに頷く。

 AIが囁く。

 《非常時、人々はしばしば“物語の原点”に戻ろうとします。血統の記憶は、その象徴として再び呼び出される可能性があるのです》


 青年は震えを覚えた。

 「再び旗にされるのか? それとも、物語の担い手として新しい役割を与えられるのか?」


 視界に、デジタルアーカイブの映像が浮かぶ。そこでは若者たちがVRで古代から現代までの皇統史を体験している。

 「これが僕らのルーツだ」

 「いや、もう歴史の教材にすぎないよ」

 意見は分かれるが、少なくとも血統は完全には忘れられていなかった。


 AIの声が静かに響く。

 《血統は、未来において“必要だから残る”のではなく、“問われ続けるから残る”のです》


 青年はその言葉を胸に刻んだ。

 社会が不安定になるたび、血統は呼び出され、批判され、利用され、消費される。それは呪縛でもあり、再生の可能性でもある。


 視界が暗転し、AIが告げる。

 《次にあなたが見るのは、2025年。あなた自身が、この長い物語を受け継ぐ担い手として登場する場面です》


 青年は深く息を吐いた。

 祖先の歴史は終わっていない。むしろ今、自分の選択によって次の章が始まろうとしている。


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