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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン12

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第99章 バブルと観光国家




 視界に広がったのは、ネオンが眩しく輝く1980年代の東京だった。超高層ビルが林立し、株価の数字が電光掲示板に踊る。街にはブランド品を抱えた若者たちが溢れ、ディスコの音楽が夜空を震わせていた。

 AIの声が囁く。

 《経済が熱狂に包まれるとき、人々は“伝統”をも商品として消費します。血統もまた、この時代に観光とブランドの対象へと変わりました》


 青年の目に、観光パンフレットが映る。そこには旧皇族の邸宅が「迎賓館」として一般公開され、庭園や茶室が観光客で賑わう姿があった。

 着物姿のガイドが説明する。

 「ここはかつて、皇族が住んでいた場所です。格式ある建築と庭園をお楽しみください」

 観光客は写真を撮り、土産物屋で“菊花紋章”を模したキーホルダーを買い求めている。


 青年は苦笑した。

 「祖先の象徴は、ついに観光資源にまでなったのか」


 場面が変わる。ホテルの大広間。結婚式のプランに「元皇族の血筋を引く人物による祝詞」が組み込まれている。

 青年は目を見開いた。華やかな会場で、元皇族の末裔がスーツ姿で壇上に立ち、穏やかな声で日本の伝統と家族の絆を語っている。

 拍手が起こり、新郎新婦は「ブランドとしての伝統」に祝福されている。

 AIは冷静に解説する。

 《血統はもはや制度ではなく、文化資本です。人々は“由緒ある血”を直接求めるのではなく、“体験”として消費するようになったのです》


 さらに場面は京都の古都へと移る。

 寺社の境内で、元皇族の血筋を持つ文化人が茶会を開いている。外国人観光客は熱心に写真を撮り、「皇室の末裔が点てた茶」として誇らしげにSNSへ投稿していた。

 青年の胸に複雑な思いが広がる。

 「血統は神話から制度へ、制度から象徴へ、象徴から観光へ……常に変形しながら利用され続けている」


 AIは低く告げる。

 《バブル経済の熱狂は、伝統をも軽やかに消費しました。だが、その軽さの中で、血統は“再び社会の中に居場所を得た”とも言えます》


 次の場面。銀座のギャラリーで、元皇族の画家が個展を開いている。訪れた観客は作品の価値以上に、その「血筋」に付加価値を見いだし、絵を高値で買い求める。

 青年は息を吐いた。

 「これは……生き延びるための適応なのか、それとも堕落なのか」


 答えはすぐには出なかった。

 だが彼の目には、血統が「観光とブランド」としてもなお、人々の関心を惹き続けている現実が刻まれた。


 夜の東京タワーが光り輝く。観光パンフレットには「古都と皇統の物語」と題されたツアーが印刷され、外国人観光客が列を成している。

 青年は悟った。

 「血統は権力を失い、制度を失い、やがて商品となった。それでも、消費されることで記憶は続いていく」


 視界が暗転する。

 AIの声が次を告げる。

 《次にあなたが目にするのは、失われた三十年。経済の停滞の中で、血統は“懐古と批判”の対象へと変わっていきます》


 青年は深く息を吸った。

 血統の歴史は、もう「滅び」では終わらない。常に形を変え、人々の欲望に応じて姿を変えてきた――その事実が、彼の胸を重くも確かなものとして打ち込んでいた。


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