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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン12

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1606/3607

第70章 《世界戦略の影》





 1951年初頭、ワシントンD.C.。冷たい風がポトマック川を渡り、議会議事堂の白い円頂に陰を落としていた。地下会議室に集められた軍人と政治家たちは、巨大な世界地図を前に静かに議論を続けていた。


 「仁川と元山での砲撃は成功だった。ミズーリと大和、二隻の巨艦が並んで火を噴く姿は、共産陣営に強烈な威圧を与えた」

 海軍作戦部長が言葉を切ると、国務長官が頷いた。

 「重要なのは実績だ。科学同盟は、ただの理念ではなく現実の火力を伴う。今後も地域紛争への投入は躊躇しない」


 会議に同席していた日本政府の特使は、言葉を選びながら反論を試みた。

 「しかし……日本国内では反発が広がっています。新聞の一部は『大和は祖国を守らず、遠い地で撃った』と批判を……」

 だが彼の声はかき消された。米国防総省の高官が冷徹に告げる。

 「同盟とは犠牲を分かち合うものだ。日本が科学で貢献するなら、その成果は戦場で証明されねばならない」


 一方、日本国内では確かに動揺が広がっていた。街頭の演説では労働組合員が拡声器を握り叫んだ。

 「大和は平和の象徴だと言ったではないか! なぜ朝鮮の山を焼き払うのか!」

 対する保守派の学生は拳を掲げた。

 「敗戦国の屈辱を脱した証だ。大和の砲声は我らの誇りだ!」


 新聞各紙も割れていた。ある全国紙は「科学同盟の成果」と書き、別の新聞は「従属の証」と断じた。社説の見出しは人々の心を二分し、家庭でも職場でも大和の話題が尽きることはなかった。


 その最中、大和艦橋でロー中尉は夜更けに手帳を開いていた。海は凪ぎ、月光が静かに甲板を照らしている。彼の筆は迷いなく走った。

 〈ミズーリは勝者の旗を掲げ、大和は敗者の艦から秩序の艦へ転じた。だが今や二隻は同じ砲声を響かせ、同じ秩序を担っている。警察国家の秩序とは、果たして誰のためのものなのか〉


 彼は筆を止め、しばらく窓外を見つめた。港に並ぶ艦影の中、大和の巨体は闇に溶けながらも異様な存在感を放っていた。それは科学同盟の象徴であると同時に、世界戦略の道具としての宿命を背負った影だった。


 戦争は続き、米国は「世界の警察国家」としての立場を固めつつあった。大和の砲声はその象徴の一つとなり、日本の人々はその響きを誇りと感じる者もいれば、従属と受け止める者もいた。


 未来の歴史家がその日を振り返ったとき、二隻の巨艦――ミズーリと大和――の並び立つ姿は冷戦初期の象徴として記録されるだろう。だが、それが「平和の証」か「従属の証」かを断じる者は、誰一人いなかった。



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