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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン12

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第51章 植民地戦争と独立運動の弾圧 ― 帝国の影




 開廷の鐘が鳴り、場内に緊張が広がった。

 裁判長が宣言する。

 「本章の審理は植民地戦争と独立運動の弾圧である。帝国の名の下で行われた暴力と、その責任を問う」


 検察官が立ち、冒頭陳述を行う。

 「ここに示すのは、アルジェリア戦争での拷問と集団処刑、インド独立運動弾圧時のアムリットサル虐殺、アジア・アフリカ各地での強制収容と村落焼却です。これらは単なる戦場の出来事ではなく、帝国秩序を維持するために計画された暴力でした」


 証人台に歴史学者が立った。

 「植民地支配は単なる経済的搾取ではありません。人々の声を封じるために、制度化された暴力が使われました。アルジェリアでは拷問が日常化し、インドでは非武装の群衆に発砲されました。いずれも“支配の論理”が民間人を敵に変えたのです」


 弁護人が立ち上がる。

 「だが、植民地は国際秩序の一部として認められていた。独立運動は治安維持の観点から見れば“反乱”だったのでは?」

 学者は厳しく答える。

 「国際秩序は常に正義と一致するわけではありません。武装していない群衆を撃ち、村を焼き、反乱と称して人を殺すことは、秩序ではなく抑圧です」


 ここで社会学者が証言に立つ。

 「植民地戦争の暴力は二重でした。現地住民に対する直接的な弾圧と、帝国本国の国民に対する“正義の物語”の押しつけです。新聞や演説では“文明化の使命”と語られましたが、実態は資源収奪と民衆の沈黙の強制でした」

 裁判長が補足する。

 「この点を忘れてはならない。暴力は現地だけでなく、本国の人々の目をも覆った。沈黙を作り出した社会全体に、加担の影がある」


 検察官は声を強める。

 「つまり、帝国の暴力は戦争犯罪であると同時に、社会ぐるみの欺瞞であったのです」


 新聞記者が速記をまとめ、記事を整える。


 > 「帝国の影を裁く――植民地戦争と独立運動弾圧」

 > 歴史学者は「支配の論理が民間人を敵に変えた」と証言。

 > 社会学者は「暴力は現地と本国双方に作用した」と指摘。

 > 弁護側は“治安維持”を主張したが、裁判長は「抑圧の正当化に過ぎない」と退けた。


 傍聴席の若いアジア系学生が声を震わせて語った。

 「祖母はインドで撃たれた人たちを見たと話していました。けれど学校では“帝国の発展”しか教わらなかった。今日初めて、その沈黙が裁かれている気がします」

 隣の白人の老人が頷き、つぶやいた。

 「私の父はアルジェリアに従軍した。彼は帰国後、決して語らなかった。あれは沈黙の罪だったのかもしれない」


 弁護人が最後に問いかける。

 「では、帝国を維持しようとした本国の一般市民にも罪を問うのですか?」

 検察官は一呼吸置き、答えた。

 「罪は区別されるべきです。沈黙は道義的責任を生むが、刑事責任は加害を命じ、実行した者に帰します。ただし歴史は、沈黙を選んだ社会全体を記録し続けます」


 裁判長が小槌を鳴らし、静かに言葉を結んだ。

 「結論を述べる。植民地戦争と独立運動弾圧は、国際秩序の名を借りた犯罪である。支配の構造そのものが暴力であったことを、人類は忘れてはならない」


 退廷後、記者は記事の末尾にこう書き添えた。

 > 「帝国が築いたのは文明ではなく沈黙だった。法廷は今日、その沈黙を破った。傍聴席を出る人々の表情には、歴史の影を直視した重さが刻まれていた」



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