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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン12

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第16章 判決の鐘



 一九四八年十一月十二日。

 朝の空気は湿り気を帯び、東京の瓦礫の街に冷たい風が吹き込んでいた。市ヶ谷の講堂には、世界中から記者と傍聴人が押し寄せていた。人々は息を潜め、ただ一つの瞬間を待っていた。

 同じ時刻、横浜港に浮かぶ大和の甲板も、白布で覆われた法廷として静まり返っていた。巨砲の影に群衆が集まり、潮の匂いが緊張をさらに強めていた。鐘の音はまだ鳴っていない。だが全員が、その瞬間が近いことを知っていた。


 判事団が入廷する。

 市ヶ谷では靴音が木の床に乾いた音を刻み、裸電球が彼らの顔を白々と照らした。

 大和では靴音が甲板に響き、艦内灯と朝日が混じり合い、判事たちの影を二重に描き出した。


 主席判事が立ち上がり、判決文を読み上げ始めた。

 「被告、東条英機……死刑」

 市ヶ谷では傍聴席にどよめきが走り、誰かが「当然だ」と叫んだ。瓦礫の街で失われた命の代償として、死刑は最も納得できる響きを持っていた。

 大和では、群衆は声を上げなかった。国土を焼かせなかった指導者を、それでも死に追いやることへの戸惑いが、沈黙となって漂った。怒りの代わりに、苦い敬意が入り混じっていた。


 「被告、松井石根……死刑」

 市ヶ谷では南京の記憶が呼び覚まされ、証言の涙が怒りに転じた。傍聴席の誰もがこの名に重い頷きを返した。

 大和では、同じ言葉が海風に流れ、「祈りを抱いた軍人」という像と「統帥責任を負う者」という像が交錯した。罪人か、無力な理想主義者か――群衆の心は揺れ、答えを出せずに沈黙した。


 「被告、広田弘毅……」

 市ヶ谷では、死刑の言葉が続き、記録官の鉛筆が紙に強く刻まれた。文官として唯一、沈黙の責任を問われた広田に、法廷は冷たく判決を下した。

 大和では、一瞬の間があった。

 「禁固二十年」

 その言葉に群衆はざわめいた。外交官としての節度を評価するのか、あるいは冷戦の駒として生かすのか。理由は明かされぬまま、判決は二つに分かれた。


 次々と名前が呼ばれ、七名に判決が下された。

 市ヶ谷では「死刑七名」が確定し、傍聴席は憤りと安堵で騒然となった。

 大和では「死刑六名と禁固一名」という結末に、群衆は言葉を失った。怒号も歓声もなく、ただ港の波音が判決を包み込んだ。


 鐘が鳴る。

 市ヶ谷では乾いた鉄の響きが瓦礫の街に広がり、裁きの正義を宣告するように響いた。

 大和では低く重い鐘が海に落ち、波に溶け、曖昧な未来を告げるように鳴り響いた。


 三人の被告の顔は、それぞれ異なっていた。

 東条は顎を上げ、最後まで軍人の顔を保った。

 松井は瞼を閉じ、祈るように頬を垂れた。

 広田はわずかに口を引き結び、沈黙のまま椅子に座った。

 その姿は市ヶ谷の裸電球の下でも、大和の艦内灯の下でも、同じ影を落としていた。ただし、その影の意味だけが、場所によって異なっていた。


 判決は下された。だが正義は一つではなかった。

 瓦礫の街と沈まぬ艦。二つの舞台で鳴った鐘の音は、決して同じ旋律にはならなかった。


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