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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン11

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第80章  頭骨の属種差異


ランプの灯りに照らされた布の上、発掘された頭骨の断片が並べられていた。湿気を含んだ空気の中で、石灰質に覆われた骨片は淡く白く輝いていた。肋骨や腕の骨と違い、この頭骨の断片は、彼らに直接「顔」を思い起こさせる力を持っていた。


アリヤ博士は手袋越しに慎重に骨片を持ち上げ、ヘッドランプを傾ける。

「見てください。この厚み。エレクトスの特徴がよく出ています。頭蓋骨は分厚く、内側からも重みを感じる。額は低く、ほとんど傾斜して後ろに流れている。」


スーザンが横からのぞき込み、指で骨のラインをなぞった。

「確かに。サピエンスの頭骨はもっと薄く、高い額を持っていますからね。骨の厚みだけで、すでに違いが際立っています。」


ラファエルが唇を噛みながら言葉を継いだ。

「眉の部分を見ろ。この出っ張り、強い眉弓の痕跡がある。サピエンスではほとんど失われているが、エレクトスやネアンデルタールでは顕著だ。つまり彼らは顔が突き出し、強い表情を持っていたことになる。」


佐久間が口を開いた。

「つまり……俺たちの前にここにいた“持ち主”は、額が低く、顔が突き出していて、頭全体が頑丈だった。きっと俺たちと並べば、一目で違うとわかるだろうな。」


美佳がカメラを回しながら、半ば呟くように言った。

「でも、闇の中で松明に照らされれば……案外、人間らしい影に見えたのかもしれない。声を出して、仲間と獲物を分け合っていたはずだから。」


アリヤは深く頷いた。

「脳容量も重要です。エレクトスの脳は平均で900〜1100cc、現代人は1350ccほど。小さいとはいえ、石器を作り、火を使い、仲間と協力するには十分な容量を持っていた。」


スーザンが指を立てる。

「ただし、後頭部の形状が違います。エレクトスは“オッシピタル・トーラス”と呼ばれる後頭部の隆起があって、脳の後ろを覆うように厚みが増している。現代人はそれがなく、後頭部は丸みを帯びています。」


ラファエルは軽く笑いながらも、その笑みには緊張が混じっていた。

「つまり、彼らは“硬い頭”を持っていたということか。考え方が単純だったわけではないが、構造的に違っていた。だがその違いこそが、進化の分岐点を示している。」


マーカスが低い声で口を挟んだ。

「だが忘れるな。骨はただの記録だ。ここにいた彼らの生き様を、俺たちは決して完全には知ることはできない。」


その言葉に、一同はしばし沈黙した。洞窟の闇が重くのしかかり、滴る水音が遠い時の経過を告げるように響いていた。


アリヤは目を閉じ、想像を言葉にした。

「この場所に、数十万年前、彼らがいた。火を焚き、石を打ち、互いに声を掛け合いながら生きていた。顔は突き出し、額は低くても、きっと互いの目を見つめ、何かを伝えていたはずです。」


美佳はファインダー越しに布の上の骨片を映し、呟いた。

「……カメラ越しには、骨も石も“無機物”にしか見えない。でも実際には、ここに“誰か”がいたんですね。」


佐久間は背後の闇を見やり、低く言った。

「そうだ。俺たちは洞窟を通って、歴史と繋がったんだ。こいつらは俺たちの遠い先祖であり、同時に“別の人類”でもある。」


ランプの灯りが揺れ、骨片に陰影を落とした。厚い頭蓋骨は、ただ沈黙を守っている。それは数十万年前から続く沈黙であり、いまも洞窟の奥深くで、彼らに語りかけているようだった。



静寂の中、チームの胸には一つの像が浮かんでいた。

頑丈で、顔が突き出し、厚い骨に覆われた人物。

炎の明かりに浮かび上がり、仲間とともにこの洞窟で息をしていた“彼ら”の姿が。


そして、その存在が今もなお、闇と石の中で眠り続けているのだった。



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