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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン11

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第56章 マレーシア水中洞窟調査 ― 地上での器材準備)



岩肌に囲まれた窪地に、次々と黄色いシリンダーが並べられていく。

金属が擦れる音、圧力計の針が跳ねる音、そして短く鋭い呼気。

その場には、水中に潜る前の、地上でしか味わえない緊張が漂っていた。


佐久間遼は無言でバルブを開け、わずかな気泡の漏れを耳で確かめた。

「問題なし。」

短く呟くその背中を、マーカス・ケルナーがじっと見ていた。

「シリンダーは一度たりとも裏切らない。裏切るのは、いつも人間だ。」

マーカスの言葉は冷たいが、仲間を守るための信念でもあった。


井上美佳は機材の間を縫うように歩き、カメラで作業風景を撮影していた。

岩に腰を下ろす佐久間の手元、汗を拭わずに調整を続けるマーカスの横顔。

「……技術は人の心を隠さない。」

レンズ越しに見えるのは、熟練の技術に裏打ちされた“恐怖の管理”だった。


ラファエル・オルティスは片膝をつき、ガラス瓶に保存液を注いでいた。

「魚や甲殻類のサンプルは、ここから先でしか採れない。小さな失敗でも、すべてを無駄にする。」

彼の声は普段の快活さとは違い、硬く低かった。


その横で、スーザン・チャンが地図を広げていた。

赤鉛筆で記された層理線が、洞窟の成り立ちを物語る。

「このシステムは数万年前に水没した。……つまり、今から潜る場所は“時間の化石”よ。」


アリヤ・ハサン博士は、全員を見渡し、静かに言った。

「ここに集まったのは、単なる技術者や学者ではない。

命を懸けて、未来の人類史を描き直そうとしている仲間だ。」


その言葉に、誰も返事をしなかった。

ただ、手の中の器材を確かめる音だけが、重く沈黙を破っていた。


次に彼らが潜るとき、この岩壁の上には空のシリンダーが並ぶかもしれない。

それでも全員が理解していた——準備こそが生と死を分ける唯一の境界線だと。


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