第74章 沖縄 そして原爆
有馬は、ここで言葉を区切り、重い事実を伝えるために、意識的に間を置いた。彼は、会議室にいる全ての幹部の顔をゆっくりと見回した。
「閣下方。ここからは、私がこれまでの戦い、そして現時点での戦況から把握している、極めて重要な情報をお伝えいたします」。
有馬の言葉は、会議室の空気を再び張り詰めさせた。
「まず、沖縄における状況ですが、ロナルド・レーガンという巨大な最新鋭空母が、沖縄守備隊に対して壊滅的な攻撃を加えていることは、すでに認識されているかと存じます。彼らは、貴官らの時代では想像もつかないほどの航空戦力と、精密な攻撃能力を有しており、沖縄の防衛体制は、その圧倒的な火力によって、完全に崩壊寸前です。
我々の介入がなければ、守備隊はすでに全滅していたでしょう。しかし、ロナルド・レーガンは、いまだ攻撃の手を緩めておりません。彼らは、沖縄を完全に制圧するまで、攻撃を続けるでしょう」。
その報告に、東條の顔には苦渋の色が浮かんだ。沖縄の重要性は、彼らが最も認識している点だった。しかし、未来の空母がもたらす破壊力は、彼らの戦術の常識を遥かに超えている。
「そして、最も緊急を要する、もう一つの事態がございます」。有馬は、さらに声を低く、しかし明確に語った。「海上自衛隊の最新型潜水艦が、現在、ある重大な任務のため、出撃しています。その任務とは、長崎と広島に投下されることになる、原子爆弾を含む4発を積載した輸送船を沈めることです」。
その言葉が会議室に響き渡った瞬間、全ての幹部の顔から血の気が引いた。「原子爆弾」――その言葉は、彼らにとっては全く未知の、しかし、その響きから途方もない破壊力を連想させるものだった。特に梅津や豊田といった実戦の指揮官たちは、その言葉の持つ重みに戦慄した。長崎と広島という地名が、彼らの脳裏に鮮烈に焼き付く。
「原子爆弾とは一体…」東條が、絞り出すような声で問いかけた。
有馬は、深呼吸して続けた。「その兵器は、一発で都市を壊滅させるほどの破壊力を持つ爆弾です。我々は、その悲劇的な事態を回避すべく、潜水艦部隊に阻止を命じました。しかし、その潜水艦部隊が、輸送船を沈めることに成功したのか否か、そして、沖縄の戦局が今後どうなるのか…まだ我々は把握できておりません。
会議室は、深い沈黙に包まれた。原子爆弾という未知の脅威、そしてその阻止任務の成否が不明であるという事実は、彼らを絶望の淵へと突き落とすに十分なものだった。
秋月は、その沈黙を破るように、有馬の言葉に続けた。「閣下方。沖縄の現状と、原子爆弾投下の進行状況についての確認が、今、最優先であると私は考えます。
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