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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン1
148/2172

第73章:未来からの報告


重厚な会議室の空気は、新たな報告を前に、さらにその濃度を増していた。梅津、豊田、藤村といった最高幹部たちの視線は、再び有馬と秋月に集中している。彼らの表情からは、未来からの来訪者がもたらす情報が、この国の運命を左右するであろうという、重い認識が読み取れた。東條英機陸軍大臣と山本五十六連合艦隊司令長官もまた、厳粛な面持ちで彼らを見据えている。


まず、山本五十六が静かに口を開いた。「秋月一等海佐。貴官が『海上自衛隊』と申されたが、それは一体どのような組織なのだ?貴官らは、日本帝国の海軍軍人ではないのか?」


秋月は、居住まいを正すと、はっきりとした口調で答えた。「山本司令長官閣下。海上自衛隊とは、貴官らの時代からおよそ70年後に、日本国が創設した海上の防衛組織です。


我々の時代、日本は戦争を放棄し、国家間の紛争解決手段としての武力行使を禁じた憲法を有しています。そのため、軍隊ではなく、専守防衛に徹する自衛隊という組織として再編されました。しかし、その実力は、周辺諸国の脅威に対応できるよう、高度に訓練され、最新鋭の兵器を装備しています。我々は、平和憲法の下で、日本の主権と国民の生命・財産を守ることを最大の使命としています」。


その言葉に、会議室のあちこちで微かなざわめきが起こった。「戦争放棄?」「軍隊ではない?」――彼らの時代には想像もつかない国家の姿に、幹部たちの顔には驚きと不信、そして僅かながら侮蔑の色が浮かんだ。特に、軍人としての誇りを何よりも重んじる東條や梅津の表情は、明らかに厳しいものになった。


しかし、目の前の「まや」という艦の存在が、その言葉に重みを与えていた。

豊田副武が、鋭い視線を秋月に向けた。「しかし、貴艦『まや』の能力は、我々の知るいかなる艦艇をも凌駕していると聞く。そのような艦が、『自衛』のためだけに存在するというのは、にわかには信じがたい。イージス艦と申したが、その詳細を説明せよ」。


秋月は、即座に答えた。「豊田閣下。『まや』は、イージスシステムを搭載したミサイル護衛艦です。イージスシステムとは、AN/SPY-1D(V)といった高性能な多機能レーダーと、それと連動する高速コンピュータ、そして垂直発射システム(VLS)を組み合わせた総合的な戦闘システムです。これにより、同時に数百もの航空機やミサイルを探知・追尾し、多数のミサイルを同時に発射して迎撃することが可能です。


我々の時代では、主に弾道ミサイル防衛(BMD)や、広範囲の防空任務に当たります。VLSには、SM-2対空ミサイル、ESSM(発展型シースパロー)対空ミサイル、アスロック対潜ミサイルなど、多種多様なミサイルを搭載しており、状況に応じて柔軟に対応できます。また、強力な電子戦装備も有しており、敵のレーダーや通信を妨害することも可能です。その能力は、貴官らの時代のどの艦艇と比較しても、圧倒的な優位性を持っています」。


秋月の説明は、精密かつ淡々としていたが、その内容は会議室にいる全員にとって、まさに衝撃的だった。数百目標の同時追尾、多数のミサイル同時発射、そして弾道ミサイル防衛――それは、彼らの時代では夢物語でしかなかった技術の結晶だった。東條の厳しい顔にも、僅かながら驚きの色が浮かんだ。山本は、腕を組みながら深く頷いている。未来の艦艇が持つ、想像を絶する能力を前に、彼らの軍事的な常識は根底から覆されようとしていた。


藤村義朗中将が、身を乗り出すように問いかけた。「貴艦らは、どこから来たのだ?そして、なぜこの時代に転移したのか?未来からの来訪者であるとすれば、貴艦らの存在そのものが、歴史に甚大な影響を与えるはずだが、その認識はあるのか?」藤村は、情報畑の人間として、時間の連続性という概念の破壊がもたらす影響を深く憂慮しているようだった。


有馬艦長が、その問いに答えるべく、一歩前に進み出た。「藤村中将閣下。我々は、貴官らの時代から約70年後の西暦2025年、太平洋上で行われていた日米合同軍事演習の最中に、突如としてこの時代に転移しました。転移の原因は、現在のところ不明ですが、演習中に発生した大規模な時空の歪みに巻き込まれたと推測されます。我々は、この転移が歴史に与える影響の重大さを深く認識しており、可能な限り歴史の流れに介入しないよう努めております。しかし、沖縄でのロナルド・レーガンとの遭遇、そして米艦隊との交戦は、そうせざるを得ない状況でした」。


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