第71章:未来の盟約:核の影
原子力空母ロナルドレーガンの艦長室の窓の外では、沖縄の夜空が、未だ爆炎によって赤く染まっていた。
スプルーアンス大将は、グラスを置くと、ウェルズ艦長に視線を向けた。彼の顔には、安堵の影が差していたが、その瞳の奥には、未来からの来訪者であるウェルズに対する、根源的な疑問が宿っていた。沖縄での異常な抵抗、そして「大和」や「まや」といった説明不能な艦艇の出現。それらは、彼の常識を遥かに超えるものであり、ウェルズという存在が、その全てを解き明かす鍵であると直感していた。
「ウェルズ艦長」スプルーアンスの声は、疲労でかすれていたが、その問いは鋭かった。「貴官の時代、我々アメリカと日本は…どのような関係にあるのだ?この血塗られた戦いの後、我々は、再び敵対するのか?貴艦の存在が、この戦局にこれほどの影響を与えたのは、一体…どういうことなのだ?」
ウェルズは、スプルーアンスの問いに、静かに、しかし明確に答えた。「大将、貴官の時代から約70年後、アメリカ合衆国と日本は、日米安全保障条約という二国間軍事条約を締結しています。我々は、同盟国です。太平洋の平和と安定のため、共に協力し合う関係にあります」。
スプルーアンスの眉が、驚きと困惑に微かに上がった。「同盟国」。その言葉は、彼の脳裏に焼き付いた苛烈な沖縄の戦火、そして昨日まで自分たちが「鬼畜」と罵り、殲滅を期してきた日本兵の顔と、あまりにもかけ離れていた。
この血みどろの戦争の後、まさか日本とアメリカが軍事的な同盟関係を結ぶなど、彼の常識では一片たりとも考えられない未来だったのだ。一体、その70年の間に何が起こったというのか。憎悪と敵意が、いかにして信頼と協力へと変貌したのか、その間の歴史が彼には全く想像できなかった。
「貴艦がこの時代に転移したのは、その条約に基づく合同軍事演習の最中であったと聞いているが…」スプルーアンスが、疑念を込めて問いかけた。彼はOSSからの報告で、その断片的な情報を得ていた。彼の脳裏には、ウェルズが以前語った「タイムスリップ」という信じがたい言葉が蘇っていた。
ウェルズは、静かに頷いた。「その通りです、大将。我々は、貴官の知る第七艦隊と、日本の海上自衛隊艦隊との合同軍事演習中に、この時代にタイムスリップしました。我々の演習は、通常であれば、対潜水艦戦闘、航空優勢の確保、海上阻止作戦など、多岐にわたる訓練を含みます。
しかし、今回の演習は…いまだかつてない、極秘の訓練を含んでいました」。