表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン10

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1432/3599

第137章 旭川完全陥落



旭川の空が轟音と閃光で埋め尽くされたのは、未明のことだった。ロシア砲兵が一斉に放った長距離砲弾とロケット弾が、街全体を覆うように降り注いだのである。市街は瞬時に火の海となり、ビルは崩落し、道路はえぐり取られた。夜空に走る火柱は数十本、地鳴りは地震のように街を揺らした。


「市街地、全面砲撃を受けている!」

指揮所に悲鳴のような報告が上がる。


自衛隊はあらかじめ覚悟していた。旭川を防衛拠点とすることは現実的ではないと分かっていたのだ。市民避難を優先し、部隊は逐次撤収を進めていた。だが、避難を終えていない人々もまだ多く残っている。砲撃の中を走る救急車、避難誘導に奔走する市役所職員と自衛官たち。市街全体が、戦争と避難の二重の混乱に飲み込まれていた。


瓦礫に覆われた大通りを戦車の履帯が轟音を立てて踏み潰す。ロシア軍のT-90が歩兵戦闘車と共に進撃してきた。装甲の後ろに歩兵が続き、崩れた建物を盾にしながら市街へ突入する。


「敵装甲部隊、中央突破!」

自衛隊の前線観測班が叫ぶ。


市街に残った自衛隊は、最後の抵抗を試みた。対戦車ミサイル班が瓦礫の陰からジャベリンを撃ち込み、数両のT-90が炎に包まれる。歩兵も狙撃と手榴弾で応戦し、数十メートル単位での激しい戦闘が続いた。しかし砲撃で地形そのものが崩れ、拠点を保持することはほぼ不可能だった。


やがて敵歩兵の突撃が瓦礫を越えて押し寄せた。ロシア兵は声を張り上げ、炎と煙を突き抜けて前進する。市街の交差点ごとに機関銃が火を噴き、互いに血を流す消耗戦が繰り返された。


「撤退しろ! 市民を優先だ!」

中隊長が無線で叫ぶ。


自衛隊は市街戦を継続するより、避難民の誘導と後方の再編を選んだ。消防団と協力して避難ルートを確保し、バスやトラックに人々を押し込む。泣き叫ぶ子供を抱いた母親、荷物を背負った高齢者が次々に南へ向かう。兵士たちはその背中を守るように小隊単位で後退し、追撃する敵を断続的に牽制した。


午後、旭川の市街地は事実上崩壊した。主要建物は半数以上が瓦礫と化し、火災が延焼している。ロシア軍は市庁舎跡地に旗を立て、電波を使って「旭川解放」を宣伝し始めた。だが、それは勝利ではなく、瓦礫の山に過ぎなかった。


南方の丘陵に退いた自衛隊は、次の防衛線を急いで構築していた。地雷原と塹壕を掘り、村落を改修して防御拠点とする。砲兵部隊は再配置を終え、反撃の準備を整えていた。


「旭川は落ちた。しかしここから先は渡さない」

指揮官の言葉に、兵士たちは黙って頷いた。疲労と悔しさを抱えながらも、その眼は南の市民を守る決意に燃えていた。


旭川は陥落した。だが戦いは終わらない。むしろ、ここからが北の決戦の始まりだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ