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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン10

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第129章 「火の海」



夜明け直前、38度線の空が鈍く赤く染まった。ロシア軍砲兵陣地が一斉に火を噴いたのだ。数百発の砲弾とロケット弾が南へ降り注ぎ、地平線そのものが燃え上がるかのような錯覚を与えた。轟音が絶え間なく続き、大地が震え、塹壕に身を潜める韓米兵士の耳鼓膜を容赦なく打ちつける。


「カウント、三百発以上……まだ増えている!」

観測所の通信兵が叫ぶ。


砲撃は無差別だった。塹壕線、補給道路、集積所。全てが炎と土砂に覆われ、遮蔽物に隠れた兵士たちは息を潜めるしかなかった。瞬間的に爆圧で空気が奪われ、肺が押し潰される感覚が続く。誰も声を発せない。ただ爆発のリズムが心臓を奪い、時間の感覚すら曖昧になる。


その上空に、新たな脅威が迫った。ロシア空軍のSu-35が編隊を組み、低空で進入してきた。彼らは爆撃とミサイル攻撃を織り交ぜ、防御線を徹底的に削る作戦に出た。機体の機動は俊敏で、防空網をかいくぐりながら旋回し、レーザー誘導爆弾を次々と投下する。地下壕の出入口が崩落し、数十人の兵士が閉じ込められる光景も報告された。


「対空、反応せよ!」

米軍防空部隊が即座にスティンガーを発射。火線が夜明けの空を走り、一機のSu-35が被弾、尾部から炎を吹きながら北へ退いた。しかし、残る機体は巧みに回避し、弾幕の合間を縫って再び爆撃を加える。


さらに頭上では、小型ドローン群が飛び交っていた。彼らは単なる偵察ではなく、囮も兼ねていた。電子妨害機能を持つ機体も混ざり、韓米防空部隊のレーダーにノイズを発生させる。結果、防空システムは一時的に混乱し、Su-35の侵入を許す隙間が生じていた。


「ドローン多数、上空を旋回中! 目標は防空網だ!」

警告が飛び交う。


しかし、韓米連合の対応も早かった。後方に展開するK9自走砲と米軍MLRSが、あらかじめ確定していた座標に向けて一斉射撃を開始した。ドローン観測で特定したロシア砲兵陣地へ、反撃の火柱が立ち上がる。地響きと共に数百メートル先で弾薬庫が誘爆し、空に巨大な火球が広がった。


「命中確認、敵砲兵の一部沈黙!」

観測員の声に、兵士たちの胸にわずかな安堵が広がる。


だが戦闘は止まらない。塹壕の前面で、不規則な動きが確認された。ロシア軍の浸透部隊だ。林帯を縫って数十人規模で進入し、混乱に乗じて後方を狙っている。彼らはサプレッサー付きの小銃を携え、影のように動く。


「浸透部隊、接近!」


韓国軍歩兵は即座にドローン群を展開した。手のひらサイズの偵察ドローンが十数機、音もなく飛び立ち、暗視カメラで林帯の影を映し出す。その映像がリアルタイムで塹壕に伝えられ、待機していた小銃手が一斉射撃を開始。闇の中で閃光が走り、数名のロシア兵が倒れた。


さらに無人攻撃ドローンが上空から急降下し、小型爆弾を林帯へ投下。木々が吹き飛び、残存兵が姿を晒す。機関銃の集中射撃が降り注ぎ、浸透作戦は瞬時に潰えた。


「浸透阻止、完了!」


それでも戦場は依然として火の海だった。砲弾と爆撃で市街の一角は完全に焼け野原と化し、守備側も大きな損害を受けている。だが、韓米連合はなお戦意を保っていた。砲撃を受けても、即座に逆火力を打ち込み、浸透を受けてもドローンで排除する。


兵士たちは瓦礫に身を寄せ、血に濡れた手で銃を握り直す。疲労と恐怖は限界に近い。だが、彼らの視線はまだ前を向いていた。


「これが消耗戦だ。勝敗は一日の戦果では決まらん」

米軍大尉が吐き捨てるように言った。


――火の海。その中で両軍は互いに譲らず、ただ相手の力を削ぎ落とすことだけに全力を注いでいた。勝者なき戦場が、38度線に広がっていた

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