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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン10

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第126章 38度線の闇



黄昏が迫ると、38度線は息を潜めたように静まり返った。だが、その沈黙は暴風の前触れにすぎない。視界を遮る林帯の奥で、ロシア軍の小部隊が動き出していた。


DMZは数十年にわたる対立の象徴であり、地雷原と鉄条網、監視塔が並ぶ死の帯だ。韓米連合はこの地域を改修し、旧来の地下壕を拡張して指揮所や補給庫を備えた「地下要塞」に仕立て上げていた。外から見れば朽ちた施設だが、内部は最新の通信網で結ばれており、地上の偽装陣地を支える心臓部だった。


韓国軍の工兵は夜を徹して塹壕線を延長し、鉄条網とバリケードを張り巡らせた。さらに、地雷帯をDMZ全域に再配置し、進撃してくる機甲部隊の速度を確実に削ぐ設計とした。地雷は単なる爆発物ではない。歩兵用と対戦車用を組み合わせ、撤退路にも仕込むことで、突破を図る敵を袋小路へ誘導する仕組みだった。


「監視センサー反応なし。異常は……待て、今入った」

前線壕の監視兵がモニターに顔を寄せる。赤外線カメラが林帯の中に散らばる熱源を捕捉していた。二十人規模、軽装備の部隊。銃口を伏せ、ゆっくりと南へ進んでいる。


「ロシアの浸透部隊だ」

無線が低く鳴り、後方の指揮所に情報が伝えられる。米軍大尉が冷静に答えた。

「深追いはするな。引き込め。位置を把握してから処理する」


林帯の影を縫うロシア兵たちは、古い鉄条網の途切れを見つけて通り抜けた。そこはあえて修復されていない“隙間”であり、彼らは自ら進んで罠に足を踏み入れた。小雨が降り始め、土の匂いと湿気が濃くなる。兵士の息遣いが聞こえる距離まで近づいたその瞬間――


カチリ、と微かな音。続けて乾いた爆発が足元を貫いた。先頭を進んでいた兵士が宙に舞い、地面に叩きつけられる。悲鳴と同時に、四方から銃声が降り注いだ。韓国軍の狙撃兵が瓦礫に偽装した陣地から一斉射撃を開始したのだ。


「前方、挟撃だ!」

ロシア兵たちは反射的に散開した。だが、足を踏み出した先には別の地雷。轟音と火花が闇を裂き、次々と兵士が倒れた。


後方で待機していた米軍の機動小隊が、無音で側面へ回り込む。ナイトビジョンを装着した兵士たちは、闇に溶け込みながらM4カービンと消音付き機関銃で制圧射撃を浴びせた。小さな閃光が連続し、林帯は瞬時に戦場へ変わった。


ロシア軍の生き残りは必死に応戦する。RPGを撃ち込み、木々を砕きながら前進を試みるが、射線はことごとく塹壕線に遮られる。前進速度は目に見えて落ち、浸透のはずがただの膠着へと変わっていった。


「後方狙いは失敗だな」

地下壕でモニターを見つめていた韓国軍少佐が呟く。隣で米軍大尉が冷ややかに頷いた。

「奴らはまだ数を試している段階だ。本命は機甲だろう。だが、この闇の中でスピードを奪えば、もう戦車ではない」


再び轟音。今度は塹壕線背後に配置されたK9自走砲が火を吹いた。GPS誘導弾が浸透部隊の退路に降り注ぎ、林帯は炎に包まれる。生き残った数名のロシア兵は撤退を余儀なくされ、影のように北へ消えていった。


雨脚が強まり、焦げた匂いが風に混じる。塹壕の中で若い韓国兵が深いため息を吐いた。

「これで終わりですか?」

隣のベテラン兵が首を振る。

「いや、始まりにすぎない。次は戦車と砲撃だ。今夜は闇を味方にできたが、明日は分からん」


兵士たちは再び銃を握り直し、耳を澄ませた。38度線の闇は深く、その奥に次の波が潜んでいる。膠着はまだ訪れていない。真の嵐はこれからだった

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