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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン10

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第110章 空と炎



台中南部の空は、朝から鈍く曇っていた。湿気を孕んだ空気の底で、不規則な羽音が幾重にも重なる。中国軍の小型ドローン群だ。数十機が市街の上を縦横無尽に飛び交い、瓦礫と煙を舐めるように偵察していた。

かつて交通量の多かった大通りは、いまや瓦礫の峡谷である。両側にそびえていたビル群は、ガラスの窓を失い、剥き出しになった鉄骨が無惨に突き出ている。吹き抜ける風に舞うのは砂塵と焦げた布切れ、そして紙屑。市民の避難が間に合わなかった区域では、崩壊した建物の影に取り残された人影が震えていた。防衛部隊の兵士たちはその姿を確認しつつも、前線から手を伸ばす余裕を持てない。


「来るぞ!」


前線壕の中で誰かが叫ぶと同時に、地平線の彼方から唸るような音が押し寄せた。中国軍砲兵部隊のMLRSが一斉に発射されたのだ。数百発の弾頭が一斉に夜明けの空を切り裂き、雨粒のように降り注ぐ。

十数階建てのビルが爆風に軋み、柱ごと崩落する。大通りの歩道橋が一瞬で空中に砕け散り、粉塵の雲が通りを覆い尽くす。広場に隠されていた迫撃砲陣地は直撃を受け、土嚢も兵士も一緒くたに吹き飛ばされた。


ドローン群はその直後、崩壊した街路の隙間を縫うように低空を飛び、赤外線で熱源を捉えた。震える避難民の影と、瓦礫の隙間に隠れた兵士の姿が同じ画面に映し出され、砲兵へ座標が送られる。数秒後、そこに再び砲弾が降り注いだ。


――飽和攻撃。

それは防御線を物理的に削るだけでなく、「心」を折るための暴力だった。生存した兵士も、自分が“見られている”という感覚から逃れられない。


「地下へ退避!」

台湾陸軍の小隊長は叫び、兵たちは崩れかけた地下駐車場へと飛び込んだ。頭上では瓦礫が降り、鉄骨のきしむ音が響く。


だが、守る側もただ耐えているわけではなかった。


後方の掩体に設置された指揮所には、別のスクリーンがあった。台湾側の偵察ドローンが捉えた赤外線映像。そこには中国軍砲兵部隊の姿が映し出されていた。車列のように並ぶ発射機、弾薬を積んだ補給車、そして装填に忙しい兵士たち。

「座標確定。送信!」

通信士の叫びと同時に、後方の自衛隊MLRSが唸りを上げる。十数本の光の矢が夜空を切り裂き、北西の地平線に向かって飛んだ。


さらに数キロ後方では、HIMARSの発射台が稼働していた。砲口から火炎を噴き上げた弾頭が、弧を描いて空へ吸い込まれていく。数秒後、遠くで地鳴りのような爆音。砲兵陣地の一部が炎に包まれ、補給トラックが次々と爆発した。映像には黒煙とともに逃げ惑う兵士たちが映る。


「命中確認。だが半数は無事だ」観測員が歯噛みする。

敵は巧妙に分散しており、いくつかの陣地はまだ活動を続けている。すぐさま新たな砲撃が飛来し、再び市街を揺らした。


台中南部の街は、火と煙で息をすることすら難しい。兵士たちは地上に出れば死に、地下に留まれば酸素が薄くなる。だが、逆火力のリズムを途絶えさせるわけにはいかない。


「あと二分で再捕捉できる。耐えろ」砲兵中尉が無線に声を張り上げた。

その声に応じるように、兵士たちは崩れかけた建物の影に身を寄せ、歯を食いしばった。彼らのすぐ脇で、市民が押し潰された家屋の下から必死に手を伸ばしていた。兵士は迷わず手を取ったが、掩体に戻る余裕はなかった。再び爆撃音が近づき、二人とも瓦礫に身を伏せるしかない。


空は黒煙に閉ざされ、炎の赤が不気味に揺れる。砲火の轟きに混じって、瓦礫に閉じ込められた人々の叫びと、負傷兵の呻きが響いた。

それでも防衛線は崩れなかった。ドローンが敵を見つけ、逆火力が飛び、わずか数分で報復が下る。そのリズムだけが兵士たちの拠り所だった。



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