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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン10

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第69章 反撃の条件



 夜の東京湾に漂う艀群。積み上げられたコンテナは一見ただの倉庫に見えるが、その内部は工作機械と発電ユニットで満たされ、完全な修繕拠点となっていた。波間に散らばる浮体工房は位置を変え続け、敵に標的を絞らせない。港を狙うミサイルが飛来しても、そこに倉庫は存在しない。


 艦橋からそれを見下ろす統幕長は、先ほどの会議の言葉を反芻していた。

 ――勝利の定義を修繕時間に置き換える。

 ならば勝つ条件とは、拠点を守ることではなく、拠点を増やし、動かすことだ。


 数日後、九州から北陸にかけて、移動式E-3車列が展開した。大型トレーラに搭載された旋盤、溶接ユニット、試圧装置。かつて呉や横須賀の工廠にしかなかった設備が、夜陰に紛れて道路を走る。路肩で休息する兵士たちは、自分たちが守っているのが「鉄路」でも「道路」でもなく、“移動する工廠”であることを理解していた。


 一方、与那国・石垣・宮古では“社会版E-1”が立ち上がっていた。

 大学の研究室では学生が旋盤を回し、地元の整備工場ではトラック用のヒンジを流用して装甲車の扉を直す。主婦はラベルの色分けを手伝い、高校生はドローンの外装を組み立てる。久我陸曹は現地のボランティアと並んでコンテナ工房を歩き、造形途中の樹脂部品を指でなぞった。

 「これでいい。飛べば、それが正解だ」


 釜山では、朴中佐が列車工場の新しいKPIを更新していた。赤字だった在庫指標は、国内メーカーから緊急提供された代替材でかろうじて黒に戻る。数値の変化はわずかだが、その数値こそが前線の寿命を延ばす。


 北海道・大湊の伊藤一等海尉は、氷雨のドックで確立した冷却ライン迂回手順をデータ化し、各拠点に共有していた。現場の整備員はそれを「伊藤マニュアル」と呼び、手順書に従って次々と艦を海へ戻していった。


 東京湾の大和艦橋に再び幕僚が集まった夜、壁面スクリーンのグラフには変化が現れていた。真っ赤に染まっていた稼働率の棒グラフに、青い帯が一本差し込まれている。まだ細い線だが、確かに増え始めていた。


 「反撃の条件は整いつつある」

 米軍作戦主任が静かに言った。


 統幕長は窓越しに艀群を見やり、低く応じた。

 「兵器を蘇らせる時間をこちらが奪い返せば、膠着は崩れる。あとは、それをどこまで持続できるかだ」


 東京湾の水面に漂う浮体工房の灯りは、まるで都市の幻影のようだった。だがそれは幻ではなく、確かに戦線を延命させ、未来への突破口を形作りつつあった

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