第51章 断たれる島の手
台湾南部・左営の海軍基地。早朝、薄曇りの空に甲高い警報が響き渡った。レーダーに捕捉されたのは、中国本土から飛来する数十発の巡航ミサイルと無人機群。標的は港に並ぶ乾ドックと臨時修繕拠点だった。
「防空部隊、迎撃開始!」
高射砲と短SAMが一斉に火を噴き、数発は空中で爆散した。だが同時に現れたUAVがレーダーを妨害し、ミサイル数発が防衛線をすり抜ける。轟音とともに、巨大なガントリークレーンが炎に包まれた。折れた鉄骨がゆっくりと海へ倒れ込み、修繕作業をしていた整備員たちが慌てて避難する。
北東部・蘇澳でも同時刻に爆発が起きた。補給用コンテナが炎上し、船体修理用の資材が黒煙を上げる。残されたのは地下に隠された倉庫のみ。地上設備はほとんど機能を失った。
花蓮では、日本から派遣された補給連絡班の佐久間陸曹が必死に在庫表を照合していた。輸送中だったF-35用冷却ユニットは、米軍仕様と互換性がなく、積み下ろしのまま使えない。さらに電力ノードを叩かれ、3Dプリンタも稼働制限を受けていた。
「部品は目の前にあるのに、規格が違えばただの金属塊だ……」
佐久間は歯を食いしばりながら、冷えた端末を操作した。
中国軍の攻撃は兵器を破壊することではなく、再生の手段を奪うことに向けられていた。ドック、クレーン、補給港――兵器の寿命を延ばす「手」が切り落とされつつある。
夕暮れ、煙に包まれた花蓮の港で、整備員の一人が呟いた。
「戦争は、飛ばすより直す方が難しい……」
その言葉は、燃え残った桟橋の鉄骨よりも重く響いた




