第63章:歴史の重圧:受け止められる真実
1945年8月。東京、陸軍省地下壕。大本営作戦会議室は、海上自衛隊「まや」からの衝撃的な告白により、深い混乱と沈黙の淵に沈んでいた。通信士官が読み上げた「…貴官らの…戦争は…敗北に…終わる…広島…長崎…二つの都市に…原子爆弾が…投下され…国土は…灰燼に…帰す…」という言葉は、将校たちの心臓を直接掴み、凍りつかせるかのようだった。
「原子爆弾だと?そんなものが、この世に存在するとでも言うのか!?」陸軍参謀総長・梅津美治郎が、机を激しく叩き、怒鳴りつけた。彼の顔は紅潮し、その言葉には、理解不能な事態への苛立ちと、騙されてなるものかという頑なな意志が滲んでいた。「これは欺瞞だ!米軍の新型謀略に違いない!我々の戦意を挫くための、臆病者の戯言だ!」彼は、未来からの情報という、あまりにも非現実的な真実を、感情的に拒絶した。
海軍軍令部総長・豊田副武もまた、厳しい表情で腕を組み、信じがたいという顔で首を振った。彼の知る日本海軍の常識では、そんな兵器は存在しえない。敗戦、焦土、そして原子爆弾投下という未来。それは、彼らが信じてきた「大義」と「勝利」の全てを否定するものであった。会議室の将校たちは、互いに顔を見合わせ、怒り、絶望、そして虚無感が入り混じった表情を浮かべていた。中には、あまりの衝撃に、椅子に崩れ落ちる者さえいた。
「未来から来た者たちが、この戦いを終わらせるために来た、と…?」誰かが、呻くように呟いた。その言葉は、彼らの心に、一筋の光と、同時に深い闇を投げかけた。
しかし、藤村正之少将は、他の幹部の喧騒から一歩離れ、冷静にその状況を見つめていた。彼の眉間の皺は深く、その思考は高速で回転していた。沖縄からの異常な戦果報告、そして「まや」の持つ説明不能な技術(安定した通信品質、未知の符号体系)が、彼らの疑念を少しずつ崩していくのを、彼は感じていた。もし、この不可解な情報が真実だとしたら、その意味するところは、あまりにも大きすぎた。彼は、この情報の中に、日本を救う唯一の道を見出そうとしていた。
「静粛に!」藤村の声が、会議室の喧騒をわずかに鎮めた。「感情的になるな!この通信が欺瞞である可能性は排除しないが、これまでの沖縄での異常な戦果を鑑みれば、軽々に断じるべきではない。発信源に対し、さらなる詳細を求めよ!そして、戦艦大和艦長、有賀幸作からの通信を繋げ!」
その時、無線機から、ノイズ混じりではあったが、聞き慣れた声が聞こえてきた。戦艦大和艦長・有賀幸作からの通信だった。
「…こちら大和…艦長…有賀幸作…『まや』は…我々を…救った…真実を…語っている…」
旧海軍の将校たち、特に豊田の心が大きく揺れた。大和艦長からの直接の保証。梅津の頑なな表情にも、微かな動揺が走った。