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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン1
132/2046

第61章 モールス信号


その時、通信室から、新たな報告が飛び込んできた。 「緊急入電!微弱ながら、特定周波数帯に反応!モールス信号…ですが、これまで聞いたことのない符号体系が混じっております!しかし…『大本営、応答を』…と…」


会議室の空気は、さらに張り詰めた。未知の符号。しかし、明確に「大本営」と呼びかける声。 「何だと!?どこの部隊だ!?直ちに識別せよ!」梅津が怒鳴る。 通信士官が、混乱した声で答える。「それが…発信源が特定できません。そして、その艦名が…『まや』…そして…『海上自衛隊』…と…」


「『まや』?『海上自衛隊』だと?」豊田が、信じられないという顔で呟いた。彼らの知る日本海軍に、そんな艦も、そんな組織も存在しない。 「米軍の欺瞞工作に違いない!」参謀の一人が叫んだ。「我々の通信網を攪乱し、混乱させようとしているのだ!」


。 疑心暗鬼が、会議室全体に広がった。疲弊しきった彼らの精神は、新たな「異常」を受け入れることを拒否していた。


同じ頃、沖縄沖の太平洋上。米軍の包囲網を突破したイージス艦「まや」のCIC(戦闘情報センター)は、静まり返っていた。


艦橋に立つ片倉大佐は、メインモニターの通信状況を凝視している。その横には、山名三尉が、絶えず変化する電波の波形を監視していた。彼の額には、微かな汗が滲んでいる。


そして、電子戦士官の三条は、張り詰めた面持ちで、無線コンソールのダイヤルを微調整し続けていた。彼女の耳には、波の音と、時折混じる微かなノイズだけが届く。しかし、そのノイズの中に、故郷からの、かすかな「声」が混じり始めたのを、彼女は聞き逃さなかった。


「山名、本土からの通信状況は?」片倉が静かに問うた。 山名は首を振った。「司令、依然として途絶しています。この時代の無線技術では、この距離での安定した通信は困難です。加えて、米軍の強力な電子妨害が、広範囲に展開されている模様」。彼の声には、焦燥が滲んでいた。いくら未来の技術を持つ「まや」といえども、この時代の通信環境は彼らの想像を絶する困難さを伴っていた。


三条は、神経を研ぎ澄まし、わずかな周波数の変化も聞き逃すまいとしていた。彼女は、無線機のダイヤルをゆっくりと回す。ザーッ、ザーッ、というホワイトノイズの中に、微かな、しかし規則的な「音」が混じったような気がした。


「艦長!…微弱ですが、特定周波数帯に反応あり!モールス信号…のようです!」三条の声が、突如として緊張感を帯びた。彼女の白い指が、素早くコンソールのキーボードを叩き、信号の解析を試みる。その瞳は、一点を見据え、集中力は極限に達していた。


「モールスだと?」片倉の眉間に皺が寄る。 山名が、即座にモニターに周波数帯のスペクトル解析を表示させる。確かに、ノイズの中に、特定のパターンが浮かび上がっていた。


「解析開始!これは…!」三条が叫んだ。彼女の顔が、驚きに染まる。 コンソールのディスプレイに、解析されたモールス符号が文字となって浮かび上がる。それは、日本軍が使用する旧式の符号体系だった。


「…ト、ト、ト…」三条が、その符号を読み上げる。「…こちらは…大本営…至急…応答を…」


司令室に、ざわめきが起きた。故郷からの声。それは、彼らが待ち望んだ、しかし、あまりにも遠く、そして途方もない困難を伴う旅路の先に、ようやく見えてきた希望の光であった。


大和の艦橋にも、この通信が伝えられ、有賀艦長と森下副長は、無言で空を見上げた。その瞳には、故郷への思いが、熱く揺らめいていた。彼らの艦は、今、まさに故郷からの呼びかけに応えようとしていた。



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