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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン10

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第15章 発掘開始 ― 闇に刻まれた層


 


 「測量班、準備開始」

 葛城の声に応じ、隊員が三脚を広げ、レーザー距離計を設置する。赤い光が壁から壁へ走り、洞窟の奥を精密に計測していく。数分後、内部の空間はデジタル座標として端末に映し出され、平面図が描かれた。


 「この区画を基点に1メートル四方でグリッドを刻む」

 真壁がチョークを取り出し、床に白線を引いた。正方形が次々と描かれ、黒い地面に白い格子が浮かび上がっていく。それは時間を切り分ける窓であり、秩序と混乱を分ける境界でもあった。


 若手研究員の高槻が息を呑む。

 「まるで……時間そのものに格子を引いているようですね」

 真壁はうなずき、静かに応えた。

 「その通りだ。ここでは一粒の灰、一片の骨が時代を語る。位置を失えば物語は失われる」



 選ばれたのは、壁際に黒褐色の帯が走るエリアだった。煤が濃縮し、肉眼でも色が異なる。人類が炎を扱った痕跡が潜む可能性が高いと判断された。


 「サンプラーを」

 藤堂科学主任が指示すると、高槻と助手が携帯コアサンプラーを持ち込んだ。筒状の特殊合金ビットを慎重に層へ押し込み、ゆっくり回転させる。摩擦熱を避けるため、窒素ガスが低い唸りを上げて噴出し、冷気が漂った。


 「……深度45センチ、到達」

 高槻の声は緊張で少し震えていた。


 彼は両手でビットを引き抜く。現れたのは、直径五センチ、長さ三十センチの土柱――氷のように硬化した堆積コアだ。黒と灰色の層が交互に走り、内部に微細な粒が点在していた。


 「シリアル番号G-1、深度45センチ」

 助手が声を上げ、ケースに封入する。透明な容器に収められたその断片は、百万年前からここに留まっていた「炎の記憶」だった。


火の痕跡


 「顕微鏡を」

 藤堂が小型顕微鏡をセットし、サンプル片を差し込んだ。モニタに映し出された映像には、黒い粒と赤みを帯びた骨片が混ざり合っていた。


 「……木炭片だ。それに、焼けた骨」

 藤堂の声が低く響く。

 「しかも燃焼温度は高い。石英粒子が熔融している。単なる自然火災ではない。洞窟奥で意図的に燃やされた証拠だ」


 隊員たちは息を呑んだ。火は暖を取るだけでなく、鉱物や骨を変質させるほどの力を持っていた。それを人類が制御していた――その証拠がここに眠っている。


危機への警告


 「換気を強化しろ」

 医務官の星野が冷静に指示を出した。

 「古代の煤や微生物が残っている可能性がある。感染リスクは無視できない」


 技術班がホースを追加し、酸素濃度を計測。数値は安定していたが、緊張は和らがない。


 高槻が声を落とす。

 「これが……百万人以上の祖先が囲んだ炎の跡……」

 藤堂は彼に視線を向け、静かに言った。

 「その炎が、我々の未来を照らすかどうかは、これからの調査次第だ」


 洞窟の奥はさらに深い闇を抱えている。まだ誰も触れていない層が沈黙を保ち、その中に次なる証拠を隠している。隊員たちは息を整え、次のグリッドに向けて体勢を立て直した。


 ――発掘は始まったばかりだった。


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