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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン1
129/2319

第59章 深海の報告:見えざる影


1945年7月。テニアン島にほど近い太平洋艦隊司令部、スプルーアンス大将の作戦室は、重い沈黙に包まれていた。薄暗い照明が、テーブルに広げられた海図と、そこに立つ男たちの顔に、不穏な影を落としている。


沈黙を破ったのは、通信士官の震える声だった。 「大将!緊急報告です!重巡洋艦インディアナポリスより…救難信号が途絶!至急、確認を要請します!」


スプルーアンス大将の眉間に深い皺が刻まれた。 「なに?インディアナポリスだと?ありえない!奴は原爆をテニアンに届け、万全の護衛艦隊を伴ってレイテ湾へ向かっているはずだ!通信途絶など、!」彼の声は、苛立ちと不信に満ちていた。


通信士官が、さらに青ざめた顔で報告を続けた。「司令部からの緊急電です…インディアナポリス沈没…との報が入りました!護衛艦隊からの報告によれば、潜水艦からの魚雷攻撃…とのこと…生存者は絶望的と…」


作戦室に、深い、凍りつくような沈黙が降り注いだ。兵器輸送を終えたばかりの、しかも厳重な護衛を伴った重巡洋艦が、この広大な太平洋のど真ん中で沈没したというのか。しかも、魚雷攻撃で。日本海軍の潜水艦は、壊滅状態にあるはずではなかったのか?

スプルーアンス大将は、怒りを通り越し、混乱に陥った。


「馬鹿な!この海域に対潜哨戒網は万全だったはず!何故だ!?一体、どの潜水艦だ!?」彼の拳が、海図のテーブルを叩いた。その衝撃で、ペンが転がり落ちる。


その時、ウェルズ艦長が、一歩前に出た。彼の瞳は、暗い作戦室の光を反射し、底知れない深みを持っていた。 「大将」ウェルズの声は、静かだが、その場にいる全ての者の耳に、はっきりと届いた。「報告された内容から推測するに…これは、通常の潜水艦による攻撃ではない可能性があります」。


スプルーアンス大将が、ウェルズに鋭い視線を向けた。


「どういう意味だ?貴官は何か知っているのか?」

ウェルズは、スプルーアンスの視線を真っ向から受け止めた。 一隻は「伊号第五十八潜水艦(I-58)です」「そして、それに加え…もう一隻、我々の知る、通常の日本の潜水艦ではない艦艇が関与している可能性が高い」。


「『我々の知る、通常の潜水艦ではない』だと?それは、貴官の言う…『未来』の潜水艦ということか?」


ウェルズは、肯定も否定もせず、ただ静かに言った。


「伊58は、史実においてインディアナポリスを撃沈する艦です。しかし、その時期は原爆投下後のことで、護衛もありませんでした。今回のこの状況…インディアナポリスにこれだけの護衛艦をつけたにも関わらず、潜水艦からの一撃で沈められた。これは、伊58単独の能力によるものとは考えにくい。彼らが、我々と同じ、あるいは我々を凌駕する索敵能力を持つ『未来の高性能艦』と連携していた可能性が極めて高い」。


スプルーアンス大将は、ウェルズの言葉に戦慄した


その時、通信士官が、血の気の失せた顔で新たな電文を読み上げた。「大将…インディアナポリスは…原子爆弾の主要部品を積載したまま…被弾したとの報です…コードネーム『マンハッタン』、重要貨物…沈没…」。


作戦室に、深い、底冷えするような静寂が訪れた。スプルーアンス大将の顔から、みるみる血の気が失せていく。原爆の部品は、既にテニアンに到着済みだと、彼は信じて疑わなかった。輸送を終えた後の、雷撃だと今の今まで認識していた。しかし、今、目の前で読み上げられた事実は、本土に投下されるはずの、日本を屈服させる最後の切り札が、太平洋の深海に消えたということを示していた。彼の口から、呻き声が漏れた。


その光景を静かに見守っていたウェルズ艦長の瞳には、しかしどこか皮肉にも似た微かな笑みが浮かんでいた。史実を知る彼にとって、この悲劇は、すでに織り込み済みであった。彼はトルーマン大統領からの「4発製造」の直接の特別命令を受け、既に手を打っていたのだ。


「大将」「ご安心ください。あの艦が運んでいたのは、確かに原子爆弾の主要部品でしたが…それは、4発のうちの初期の2発に関するものでした。私の助言に従い、インディアナポリス以外の護衛艦の軽巡洋艦に分散積載された残りの2発は、すでにテニアン島に移送済みです。あの艦艇は無事、任務を完遂しました」。


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