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大和沖縄に到達す  作者: 未世遙輝
シーズン9

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第40章 発表 ― 骨の声と地層の囁き



 2026年秋、ジュネーブ国際会議場。世界総合学術会議の開幕セッションは、人類進化に関する最新成果の発表で幕を開けた。会場には各国から集まった研究者、記者、政府代表がひしめき、空気は熱気と緊張に包まれていた。


 最初に登壇したのは古人類学者、カレン・ホルツマン教授だった。スクリーンに映し出されたのは、猿人から原人、旧人に至るまでの骨格標本の3Dスキャン画像である。


 「皆さん、ご覧ください。骨盤の角度、脊柱の弯曲、手指の関節の柔軟性。この連続的変化が、直立歩行から道具操作、そして複雑な社会行動へとつながっていきます。」


 彼女はポインターを動かしながら、脳容積の増加グラフを示す。だが、その線は滑らかなカーブではなく、時に急激な跳躍を描いていた。


 「ここです。約200万年前と40万年前。この二つの時期に、脳容積は統計的に有意な飛躍を見せています。」


 ざわめきが広がった。古人類学の定説では、進化はゆるやかな連続で説明されるべきものだ。だがホルツマン教授の声は揺るぎなかった。


 続いて登壇したのは遺伝学者の西村明彦。彼は氷期の洞窟から発掘された旧人骨のDNA解析を発表した。


 「ご覧いただいているのはミトコンドリアDNAのハプロタイプ分布です。原人と旧人の間に、複数回の交雑が確認されました。」


 スクリーンに映し出された系統樹の枝は複雑に絡み合い、単純な直線的進化を否定していた。


 「さらに注目すべきは、この領域です。」

 西村は一つのDNA配列を拡大する。「挿入配列が存在します。既知の霊長類には見られず、現生人類にも残っている。外部から導入された可能性を排除できません。」


 会場がざわつく。発表者自身もそれ以上の断定は避けたが、聴衆の表情には驚愕と好奇心が混じっていた。


 続いて神経科学者、アレハンドラ・ドミンゲスがマイクを取った。彼女は人類進化における脳の変化を、別の角度から切り込む。


 「脳の大きさだけでは説明できません。重要なのは神経回路の再配線です。」


 スクリーンには脳波実験の結果が示される。現生人類とチンパンジーの脳波比較だ。


 「ご覧の通り、人類は一定の周期信号に対して同期しやすい。拍やリズムの処理能力が顕著に発達しているのです。言語、音楽、集団行動。すべてこの能力に依存しています。」


 彼女は一瞬言葉を止め、会場を見渡した。

 「これは偶然でしょうか。それとも、進化の過程で外部の周期的圧力が働いていたのでしょうか。」


 聴衆が息を呑んだ瞬間、次の発表者が登壇する。地質学者のイブラヒム・ハッサン博士だ。


 「私は骨やDNAではなく、大地の記録から語りましょう。」


 スクリーンにはアフリカ大地溝帯の地層断面図。氷期と間氷期のサイクルが色分けされていた。


 「人類進化の飛躍期は、地質学的に見ても特異です。火山活動、湖水の消長、乾燥と湿潤の繰り返し。こうした環境変動が、進化を促したのは確かでしょう。」


 ハッサン博士は指で層の境界をなぞった。

 「だが問題は、この安定期です。約40万年前、気候の変動が抑制されている時期があります。自然の気候モデルだけでは説明できません。地球内部、あるいは外部からの要因が“揺れ”を和らげていた可能性を考えざるを得ません。」


 最後に古生物学者のリー・メンファン教授が登壇した。彼は旧人遺跡から出土した動物化石を紹介する。


 「これは大型哺乳類、これは小型草食獣。絶滅と存続の分布が、人類の進出と不自然に重なっています。」


 スクリーンには狩猟痕のある骨と、同時代に生き残った種の比較表。

 「進化の舞台は、人類だけでなく生態系全体に広がっていました。人類が生き延びられた理由は、単なる技術や知能の発展ではなく、生態系全体の“調律”があったと考えるべきです。」


 五人の発表が終わると、会場は静まり返った。だがそれは沈黙ではなく、嵐の前の静けさだった。


 最初の質問者が立ち上がる。ヨーロッパの進化生物学者だ。

 「骨、DNA、脳波、地層、化石。異なる分野の証拠が“周期的外因”を示唆しているように見える。しかし――これは偶然の重なりか、それとも意図されたものか?」


 その問いが落ちた瞬間、会場は一気にざわめきに包まれた。

 誰もがわかっていた。これは単なる学術的好奇心を超え、人類そのものの起源を揺るがす問いだと

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