【要約】(第52章~第54章)
【要約】深海の挽歌:失われた「牙」
1945年7月下旬、東シナ海の深海で、**潜水艦「そうりゅう」と「伊58」**による原爆輸送艦「インディアナポリス」への決死の攻撃が始まった。伊58から放たれた九五式酸素魚雷は、水圧を切り裂き、インディアナポリスの艦底を貫いて炸裂。数分後、護衛艦が混乱する中、インディアナポリスは轟音と共に深海へと引きずり込まれ、原爆輸送阻止は成功する。
しかし、安堵は束の間だった。インディアナポリス沈没の混乱に乗じ、米海軍護衛艦隊は猛烈なアクティブソナーで潜水艦捜索を開始。「伊58」は必死に回避するも、米駆逐艦の包囲網に追い詰められ、爆雷投下の音紋が迫る。
そうりゅう艦長・竹中二等海佐は、友を見捨てることを潔しとせず、自らの存在を露呈する覚悟で、魚雷4本を米駆逐艦へと発射。伊58を救うため、デコイとして米軍ソナー探知圏へ突入する「電光石火の決断」を下す。しかし、米駆逐艦の迅速な回避により魚雷は命中せず、爆雷の猛攻が「伊58」に集中する。
「伊58…!音紋、急激に乱れています!分解音が…!」ソナー員・石倉の絶望的な叫びが響く。「伊58から緊急信号!**『目標撃沈成功。本艦は…ここまでだ…未来を頼む』**信号、途絶しました!」
史実では生き残るはずだった「伊58」は、竹中の救援が間に合わず、強化された米軍の反撃によって海の藻屑と消えた。竹中艦長の心には、橋本中佐と「伊58」乗員たちの悲壮な犠牲が重くのしかかる。
原爆投下阻止の代償として、未来を変えるために命を賭した過去の戦友が、深海に散った。そうりゅうは、失われた「牙」への痛みを抱え、闇の中へと消えていく。