第54章 イ58沈む
ドォン…ドォン…ドォン!
そうりゅうの放った魚雷が外れたことで、米駆逐艦の報復が伊58に集中したのだ。爆雷の衝撃は、そうりゅうの艦体を微かに震わせた。
「伊58…!音紋、急激に乱れています!艦体から分解音が…!甲板が…砕けるような…!」石倉が絞り出すような声を上げた。彼のモニターには、伊58の音紋が急激に拡散し、その存在が希薄になっていく。
「竹中艦長、伊58から緊急信号!『目標撃沈成功。本艦は…ここまでだ…未来を頼む』…信号、途絶しました!」深町が、顔色を変えて報告した。最後の信号は、橋本中佐の、そして伊58の乗員たちの、未来への、そして同志への、悲壮な願いが込められたものであった。
竹中艦長は、その報告に目をつむり、深く息を吐き出した。伊58は、史実ではこの後も生き残るはずだった。しかし、今回の作戦での連携と、米軍の強化された警戒態勢、そして何よりも、救援が間に合わなかったという事実が、その運命を悲劇的に変えてしまったのだ。彼の心には、橋本中佐と伊58の乗員たちの犠牲が、重くのしかかった。
「佐久間、機関、最大静粛を維持。
そうりゅうは、伊58が深淵へと消え去った海域から、音もなく、深海の闇の中へと消えていった。