第53章:絶望の救援
インディアナポリスが沈没した混乱の中、水上の米海軍護衛艦隊は、猛然と潜水艦捜索を開始した。
「艦長、敵駆逐艦、アクティブソナーを全開!猛烈なピンガー音です!本艦に向けて針路を取っています!」石倉の冷静だった声に、再び緊張が走った。そうりゅうといえども、至近距離でのアクティブソナーは脅威となる。
「伊58、回避行動を取っているが、敵駆逐艦の追跡を受けています!爆雷投下準備の音紋を複数感知!」石倉が叫んだ。
そうりゅうのメインソナーには、伊58が必死に回避行動を取るスクリュー音と、その周囲を猛スピードで包囲していく米軍駆逐艦のスクリュー音、そしてけたたましいアクティブソナーの探信音が鮮明に捉えられていた。
竹中艦長は、モニターに表示される伊58と敵艦隊の動きを凝視した。伊58は、もはや逃げ場のない袋小路に追い込まれつつあった。伊58は、彼らの「目」を信じて、この死地へと踏み込んだのだ。未来から来た自分たちが、この時代の人々を巻き込み、そして見捨てるというのか?
「深町、魚雷発射用意!佐久間、機関、最大戦速!敵護衛艦のソナー探知圏へ突入する!」竹中艦長の決断は、電光石火だった。彼は、目の前の友を救うことを選んだ。
「艦長、ですが…!そうりゅうの存在を露呈すれば…!」深町は一度は躊躇したが、竹中艦長の視線を受け、すぐに命令を実行した。「了解!魚雷発射管、一番、二番、三番、四番、発射用意!目標、敵駆逐艦、先頭の艦!」
そうりゅうの艦内を、重厚な空気の振動が伝わる。
ズドン!ズドン!
発射された魚雷が、伊58を追い詰める米駆逐艦へと向かう。そうりゅうは、伊58の猛追を妨害するため、自らの存在を危険に晒す決断を下したのだ。
「魚雷発射を確認!目標へ向かいます!」
しかし、米軍の対潜警戒網は、彼らが想像する以上に厳重だった。
「艦長!敵駆逐艦、高速で回避行動!魚雷を回避しました!」石倉が叫んだ。米軍駆逐艦の迅速な反応はそうりゅうの奇襲を跳ね返した。
「くそ…!」
遠くから、深海で炸裂する爆雷の音が、断続的に響き始めた。




