第11章 銀河の種子へ接続
恒星の光がまだ淡く、惑星たちが冷たい円盤の中で形を取り始めた頃、この銀河にはすでに数えきれぬほどの文明が息づいていた。彼らの姿は記録に残らない。だが、残した痕跡だけは確かに存在した。
その一つが「生命種子」と呼ばれる仕組みである。鉱物と有機分子を複合させたカプセル。外殻は数億年の放射線や真空にも耐え、内部には微小な代謝核と、環境に応じて自己を守るための仕掛けが組み込まれていた。
種子には二つの系統があった。
一つは 「エネルギー共生核」。自身に微量の放射性元素を抱え込み、外界が凍結しても代謝を続ける安定型。
もう一つは 「自己展開型熱源」。惑星に着陸すると地熱や鉱物反応を取り込み、小さなリアクターを形成して周囲を温床に変える能動型。
それらは恒星系ごとに散布され、幾千もの軌道を漂った。あるものは衝突の衝撃で砕け散り、あるものは氷の中で眠り続け、あるものは偶然にも液体の水に触れ、芽を吹いた。
やがて、そのいくつかは太陽系にも到達した。小惑星帯や彗星核に紛れ込み、重力の導きで惑星へと降下した。火星の氷原にも、地球の原始海にも、種子は撒かれていた。
数千万年を超える時を経て、氷と岩の下に灯る小さな温床が生まれた。
そこには自己展開型熱源が稼働し、閉じられた湖を溶かし、最初の群体が育ち始めた。やがてその群体は代謝を多様化させ、外界へと拡散していった。
銀河に散布された種子は、偶然ではなく意図を持って設計されていた。外界の環境が変わろうとも、数百万年から数千万年という「猶予」を与え、生命が進化を始めるための橋を築く仕組み。
――これは、その橋を渡り始めた生命の物語である。
銀河規模の播種計画の断片が、やがて火星や地球、そして月の地下で再びつながっていく




