第4章 太陽の誕生
約46億年前、銀河の腕の中で収縮した分子雲の一部が、重力崩壊を起こした。中心では原始太陽が点火され、核融合の火が灯る。水素はヘリウムへと変わり、莫大なエネルギーが放射される。その光と恒星風は、周囲に渦を巻く円盤のガスと塵を吹き払いながら、原始惑星系を形作っていった。
円盤は直径数百億キロに及び、温度勾配がはっきりと存在した。内側は千度を超える高温で金属や岩石が溶け、外側は氷が安定する冷たい領域となる。その両極端に、銀河の暗黒工房で生まれた種子カプセルを抱えた氷や鉱物が散らばっていた。
やがて円盤内の塵粒子が衝突と合体を繰り返し、微惑星が誕生する。半径数十キロの天体の内部では、放射性同位体の崩壊によって熱が生じ、氷は溶けて液体の水となり、有機分子を内部に閉じ込めた。ここでも「保存」と「変化」が同時に進んだ。放射線に強い外殻に守られたカプセルはほとんど変質せず、周囲の水や鉱物を吸着しながら、より大きな保護層を得た。
原始地球と原始火星は、この円盤の中で徐々に形を成した。数千万年に及ぶ天体の衝突と合体が続き、最後には数千キロ規模の惑星が残る。地球は巨大衝突(後に月を生むとされる)によって再び高温のマグマの海となったが、その後の冷却期に、彗星や小惑星が大量に降り注ぐ「後期重爆撃期」を迎えることになる。
その衝突こそが、銀河から届いた種子を惑星表層へと埋め込む機会となった。直径数キロの彗星が大気に突入し、衝撃で氷が蒸発する。その中の一部は表層の水に溶け込み、あるいは地下深くに閉じ込められた。火山の噴出口や深海の熱水噴出孔へ流れ込んだものもあっただろう。
火星もまた、かつては厚い大気と広大な海を持っていた。そこにも同じ種子が降り注ぎ、赤い惑星の表面に化学的な可能性を播いた。後にその多くは環境悪化で失われるが、この段階では地球と火星は生命の芽を受け取った姉妹星であった。
科学的な裏付けは現代に残っている。カーボナシャス・コンドライト隕石に含まれるアミノ酸、核酸塩基、糖の前駆体。隕石衝突で地表に届けられたそれらは、純粋な地球内生成では説明しにくい組成を持つ。これこそが「太陽誕生と同時に、外部から生命の材料が届けられた」という証拠の断片である。
神の視点で見れば、太陽の誕生は単なる恒星形成の一例に過ぎない。だが、その光と重力が種子を集め、惑星に降らせたことが、後の進化史を方向づけた。生命は太陽の周囲で偶然芽吹いたのではなく、銀河の工房で仕込まれた素材が、若き恒星系の混沌に散布された結果として始まったのだ。
静かに回転する円盤の中で、地球と火星は次の舞台を迎える準備を整えていた。種子は沈黙を保ったまま、しかし確かにそこに存在していた。




