第52章 深海の咆哮:破滅の連鎖
1945年7月下旬。マリアナ諸島東方海域の漆黒の深海は、突如として、轟音と閃光に揺さぶられた。伊号第五十八潜水艦(I-58)から放たれた九五式酸素魚雷は、水圧に耐えながら高速で突き進み、その「牙」を原子爆弾輸送艦インディアナポリスへと容赦なく剥いた。
「艦長、魚雷、命中しました!」石倉先任伍長の興奮した声が、そうりゅうの司令室に響き渡った。ソナーディスプレイには、インディアナポリスの艦体から発生する、金属が引き裂かれる音紋と、爆発の衝撃波が記録されていた。音響解析からは、艦底を貫かれた魚雷が内部で炸裂し、船体が致命的な損傷を受けていることが示唆された。
「よし!」竹中二等海佐は、静かに、しかし力強く応じた。
水上では、インディアナポリスの艦体が、巨大な水柱と黒煙を上げながら、一瞬にしてバランスを崩した。護衛の駆逐艦とフリゲート艦は、突如として発生した爆発に混乱に陥った。
「目標、急速に沈降中!艦尾から急速に沈んでいます!分解音、発生!」石倉が立て続けに報告する。
インディアナポリスは、わずか数分で艦体を大きく傾け、船首を高く持ち上げたかと思うと、一気に深海へと引きずり込まれる。最後の瞬間、巨大な鉄塊が水圧で押し潰される凄まじい音が、遠くそうりゅうの艦底にまで伝わってきた。
「伊58より『そうりゅう』へ。目標、インディアナポリス撃沈を確認!貴艦の『目』、まことに見事であった!」橋本以行中佐の声が、興奮を抑えきれない様子で無線から響いた。「護衛艦、混乱中。この隙に離脱する。貴艦も速やかに退避せよ」。
「了解。伊58の幸運を祈る。本艦も離脱する」竹中艦長は応じた。
しかし、安堵の時間は短かった。