第5章 アニメ風
1945年4月8日、朝靄の東シナ海。
沖縄本島北西の海域を、奇跡の艦隊が進んでいた。
戦艦大和。その右舷を護るように並走するのは、令和の護衛艦群――「いずも」「まや」「むらさめ」、そして潜水艦「そうりゅう」。
時代を超えて結集した“連合艦隊”が、いま米軍上陸艦隊と直接ぶつかろうとしていた。
艦橋に立つ大和艦長・有賀幸作は、顎をわずかに引き、前方を射抜くように見据える。
水平線の彼方に浮かぶのは、数え切れぬ米艦艇の影。輸送艦、揚陸艦、護衛駆逐艦――総数百五十隻。
有賀の眉間が深く刻まれた。
「今度こそ……我々は無駄死にせんぞ」
背後から無線が入る。通訳を介して伝えられたのは「いずも」の戦闘指揮所からの命令だった。
「全艦に通達。大和の射界確保まで、電子戦部隊は妨害を継続。防空は『まや』、対艦は『むらさめ』。潜水艦『そうりゅう』は後方から攻撃に参加」
副長・森下耕作が報告する。
「現代艦、すでに射撃体制完了。米軍レーダーは麻痺状態……いけます」
「ならば――撃て」
有賀の声は低く、しかし鋭かった。
次の瞬間、大和の46センチ砲が咆哮した。
雷鳴のような三連斉射。巨弾は十数秒後、米LSTの一隻を貫き、海を黒煙で覆った。
「命中!」
艦内が揺れるような歓声に包まれる。だが、それは一瞬だった。
米軍艦隊が一斉に反撃を開始する。空母から飛び立つF6F戦闘機。巡洋艦の八インチ砲。駆逐艦の魚雷――怒涛のごとき反撃。
だが、その全てを現代の自衛艦が受け止めた。
護衛艦「まや」がイージスシステムで十数発のミサイルを空中で迎撃。
F35B戦闘機が制空権を握り、旧式の艦載機を次々と撃ち落としていく。
「いずも」からは最新型ドローンが発艦し、米指揮艦のブリッジを正確に叩く。艦隊の連携は一時的に崩壊した。
その隙を突き、大和が二度目の斉射。
砲弾は米揚陸指揮艦「タッカーヘンリー」の機関部を直撃。炎が上がり、米艦隊の隊列が大きく乱れる。
「このまま奴らを沈めるぞ!」
森下副長の声が艦橋に響いた。
しかし、米軍も黙ってはいない。
「むらさめ」が集中攻撃を浴び、コルセアの機銃掃射が艦尾を襲った。火災発生。艦内に緊迫した指令が飛び交う。
「消火班、急げ!」
混乱の中でも、乗員たちは冷静に対応していく。
自衛隊の士気は高い。彼らはこの戦いが「歴史を修正する一戦」であることを理解していた。
潜水艦「そうりゅう」は潜航深度二百メートル。
狙うは米空母「イントレピッド」。
魚雷四発――そのうち二発が命中し、甲板に待機していた戦闘機が火柱に包まれた。
「イントレピッド炎上! 離艦不能!」
「よしっ、押し返せる!」
だが、その喜びも束の間。
米軍が最後の切り札を放つ。沖縄本島から、B-29の大編隊が接近していたのだ。
高高度からの絨毯爆撃。
自衛艦の迎撃網をかいくぐり、爆弾が海面を叩く。
「大和、被弾!」
副砲塔が吹き飛び、負傷者が続出。艦橋に火花が散る。
倒れた兵の肩に手を置きながら、有賀は声を絞り出した。
「ここで退けば、また何万人もの民が死ぬ……。撃ち尽くせ! 大和の命運は尽きるかもしれぬ。だが、その先の未来を、我らが切り拓くのだ!」
その言葉とともに、大和は三度、主砲を撃った。
巨砲が咆哮し、米輸送艦群は散り散りに退き始める。
未来と過去が交錯する戦場で、大和はなおも生きていた。