第46章:大和とイージス艦「まや」沖縄の包囲網突破(D-Day 昼間)
沖縄沖。夜明け前の、最も闇が深い時間帯。米軍の外周艦隊は、まだ油断しきっていた。その隙を狙い、「まや」は単独で電子戦モードに移行した。艦内では、三条が、その白い指先でキーボードを叩く。彼女の瞳は、モニターに映る無数の周波数帯を捉える
「ECM開始!対象、米軍E-2D、P-8A、およびレーダーピケットライン!偽装目標、複数生成!」三条の声が、艦橋に響き渡る。
「まや」の電子戦システムから、強力な電波が発せられた。それは、米軍の広範な通信・レーダー周波数帯に、一斉にノイズを送り込む。米軍のレーダーピケットラインには、存在しないはずの艦影が複数生成され、オペレーターたちの間に一瞬の混乱が走った。「不明目標、複数出現!方角不定!」無線には、焦りの声が飛び交い始める。
この攪乱と同時に、大和と「まや」は、一気に加速した。海面に白い波跡を描きながら、その巨体は高速で北上を開始する。
「第一層(外周艦隊)への突入!」片倉大佐の声が、艦橋に響く。
米空母機動部隊から、F6FヘルキャットやF4Uコルセアといった艦載機が迎撃に上がるのが、遠く目視で確認できた。しかし、「まや」のイージスシステムは、それらを瞬時に捕捉し、長距離から迎撃ミサイルを発射する。空中で炸裂する火花が、夜明け前の空に小さな光点を生み出す。
大和は、その46cm主砲を敵艦隊へと向けた。轟音と共に、巨弾が放たれる。着弾は遠距離だが、その威嚇射撃は、米軍の艦艇に「動く要塞」の存在を否応なく知らしめた。混乱する米軍のレーダーは、正確な目標捕捉を失い、指揮系統が一時的に寸断される。その隙を、大和と「まや」は全力で突破していく。
第二層(内周艦隊)への突入は、さらに激しかった。レーダーピケットラインからの集中的な攻撃に晒される。機銃掃射の曳光弾が、まるで雨のように降り注ぐのが見えた。「まや」のCIWS(高性能20mm機関砲)が火を吹き、SeaRAM(近接防御ミサイル)が飛来するF6Fヘルキャットを次々と撃ち落とす。爆発の閃光が、艦橋の窓を一瞬白く染める。大和の副砲も火を噴き、白い航跡をひきながら接近する駆逐艦の魚雷を排除するべく、正確な射撃を行った。
「機雷原、通過!」山名三尉の声が、緊迫した艦橋に響き渡る。彼は事前に綿密に特定した機雷原の隙間を、正確な航法で指示していた。その航路は、米軍が緊急敷設した新型機雷の予測される配置をも回避する、まさに紙一重の突破であった。何度か「まや」のソナーが機雷を探知したが、その都度、艦長と操舵員の迅速な判断で回避していく。
その頃、沖縄本島では、ロナルド・レーガン空母打撃群が沖縄本島へと接近しつつあった。座礁した「いずも」と「むらさめ」は、陸上砲台と化した旧海軍艦艇、そして牛島守備隊と共に、ロナルド・レーガンの艦載機と上陸部隊を迎え撃つ準備を整えていた。