第45章 アニメ風
1945年5月。沖縄戦は膠着しつつあった。海上自衛隊と旧日本海軍が決死の抵抗を続けるその裏で、ワシントンD.C.、ホワイトハウス地下作戦室には重苦しい空気が漂っていた。
未来から現れた原子力空母「ロナルド・レーガン」が、米軍傘下で沖縄本島への第三次攻撃を1か月後に開始する――。その決定がすでに下されている中での会議だった。
トルーマン大統領を中心に、空軍長官、海軍長官、そして「マンハッタン計画」の責任者たちがテーブルを囲む。沈黙は重く、時計の音だけが響く。
大統領が口を開いた。
「マンハッタン計画の進捗はどうなっている」
責任者のひとりが答える。
「順調です、閣下。すでに二発の原子爆弾が完成しております。広島と長崎への投下準備も最終段階です」
声の奥には誇りと恐怖、相反する感情が入り混じっていた。
トルーマンは視線を鋭くした。
「追加の二発はどうだ」
室内の空気が一段と張り詰める。
「テネシー州オークリッジでは、Y-12工場での電磁分離、K-25工場でのガス拡散法による濃縮が進んでおります。数万人の作業員が昼夜を問わず稼働中です」
その作業員たちの多くは、自分が何を生み出しているのかすら知らない。ただ巨大な電磁石の唸りと、絡み合うパイプの森の中で、疲弊した体を酷使していた。
別の技術者が補足する。
「ワシントン州ハンフォードのB型原子炉では、ウラン238が中性子を吸収し、プルトニウム239が生成されています。毒性が高く、強い放射線を帯びているため、化学的再処理を厳重に繰り返している状況です」
トルーマンの問いは容赦ない。
「材料が揃うのは、いつだ」
海軍長官が答える。
「あと二週間で必要量を確保できます。その後ニューメキシコのロスアラモスに搬入し、オッペンハイマー博士を中心に、ノイマン、テラー、フェルミらが設計を進めます。三発目、四発目は『ファットマン型』爆縮式プルトニウム爆弾として、一か月後には完成の見込みです」
計画はすでに限界まで加速されていた。オークリッジもハンフォードも、設備は酷使され、現場には小さな事故が頻発していた。それでもグローヴス准将の指揮のもと、全員が口を閉ざし、機密保持を最優先にして進められていた。
トルーマンの声が再び響く。
「テニアンへの搬入は」
「9月を予定しています」海軍長官が答える。「インディアナポリスを旗艦とした特別任務部隊で。最新鋭駆逐艦四隻と、フリゲート艦二隻が護衛につきます」
空軍長官が短く続けた。
「テニアンの準備はすでに完了しています」
その言葉に、トルーマンはただ静かに頷いた。表情は一切揺るがない。感情を剥ぎ取られたようなその横顔に、参謀たちは言葉を失った。
人類史上、最も破壊的な兵器が、いま確実に姿を現そうとしていた。