第43章 アニメ風
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1945年5月、沖縄。
東の水平線が、わずかに群青を帯び始めた。海風は冷たく、肌を切るように頬を撫でる。それは、新しい一日の始まりを告げると同時に、いくつもの物語が終わり、また始まろうとしていることを知らせていた。
地下壕の入口。
ひめゆり学徒隊の少女たちが、海自の隊員たちと別れを交わしていた。
「どうか、ご無事で……」
小さな声が震えた。細い肩が揺れている。
山名三尉は無口な男だった。しかしそのときばかりは、感情を押し殺すことができなかった。胸の奥に熱いものが込み上げる。
「君たちも、生き抜け。我々が未来を護る」
そう言うと、少女の手を強く握った。
北部のビーチ。護衛艦「いずも」は岩礁に突き刺さり、すでに艦艇というより要塞だった。艦橋の窓は潮で曇り、その向こう、遠ざかる大和と「まや」の影が、夜明けの光に浮かんでいる。
艦橋に立つ渡会艦長は、一歩も動かない。隣に立つ山名三尉が、静かに敬礼をした。
電子戦士官の三条は、唇を噛みしめ、嗚咽を押し殺している。
「司令、大和、まや、ともに離脱コースへ移行しました」
声はかすかに震えていた。
通信回線から、雑音を突き破るように大和の最後の無電が届く。
――我々は行く。未来を頼む。
片倉大佐は、光を浴びた横顔に苦悩を滲ませながら言った。
「彼らは日本の命運を背負った。我々にできるのは、成功を信じることだ。この沖縄で最後の壁となり、未来を護る」
一方、大和と「まや」では、静かな出港の時を迎えていた。艦長、副長が深く頭を下げる。言葉はない。ただ、その所作のすべてに信頼と感謝が込められていた。
大和の甲板。兵たちは沖縄の陸地に向かって黙礼を送った。戦火の中で初めて手にした「勝利」の感覚は、彼らの心に刻みつけられていた。無駄死にではない――その確信があった。
座礁した駆逐艦「雪風」の乗員もまた、大和の姿が水平線に消えるまで見送り続けた。彼らは沖縄で最後の砲台となる覚悟を決めていた。潮風が頬を撫でる。故郷を託す友への思いが、その表情に影を落とした。
丘の上からは牛島満大将が、長参謀長と共にその光景を見届けていた。
護衛艦「むらさめ」。艦橋の乗員は「まや」の姿が消えるまで見送った。艦尾に被弾し火災を起こしていたが、応急処置でどうにか持ち直していた。彼らもまた、「いずも」と共に沖縄の防空の拠点となる。甲板には油と硝煙の臭いがまだ漂っていた。
さらに先に出港した潜水艦「そうりゅう」からも、別れの無電が届く。
大和と「まや」は、米軍の包囲網を突破し、早期停戦への希望を背負って北へ向かった。その航跡は夜明けの海に確かに刻まれていく。
残された「いずも」と「むらさめ」、牛島の守備隊、そして民間人たち。彼らは未来を護るため、壮絶な防衛戦へと挑んでいく。
沖縄の海は静かだった。しかし、その静けさの奥底で、新しい歴史のうねりが確実に芽吹いていた。