表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/4





 4時間後。

 王宮派遣騎士団が辺境伯城に乗り込み、戸籍上の夫とセバスチャンが逮捕された。


 罪状は妻への虐待、暴行指示、傷害、窃盗、侮辱、予算の着服。それから王命を軽んじたことによる反逆罪。




 打首かとワクワクしていたら王女が陛下に泣きついたらしく、処刑はセバスチャンだけで、ゴミ辺境伯は謹慎と賠償のみになった。


 あり得なくない??


 もっとあり得ないのは、私が領主代理として領地と家を経営しないといけないってさ。


 いや、婚姻無効にしろよ。


 王って税金の無駄遣いと余計なこと以外できないの?


 クーデターするぞ!






 仕方なく、領主兼当主代理として働き出した。


 父が不甲斐ないせいで10歳から領地経営に携わってきたので、仕事はわかるけど、まあ忙しい。


 宗主国から戦争放棄宣言させられるまで、ここは軍事拠点の1つだった。


 しかし国から兵も予算も引き揚げられた今、産業らしいものもなく人口が日に日に減少しているところ。


 それなのに怪我やリストラで職を失った兵士たちが破落戸として残ったため、税収入は少ないのに治安維持に予算を取られるという最悪な状況。


 その上、使用人を大量解雇したので人手は足りない。


 半狂乱になりながら働く私をダリと新しい使用人・領民が支えてくれて半年。


 何とか経営が軌道に乗ると同時にアレの謹慎が解けたため、顔を合わせる前に脱走した。





 すぐに捕まって連れ戻された。


 王命だってさ! 王って何ぞ?


 監視付きで働く日々が始まった。


 現状を知らせるため「視察のついで」と言ってダリの宿泊先を訪ねたが、何の書き置きもなく居なくなっていた。


 ショックだったが彼は、私に素性を明かさなかったため、いつかこうなるかもしれないと思っていた。






 ダリが消えてヤル気も消えた私は、最低限の仕事だけする日々。


「新婚旅行いこうか?」


「シンコンリョコウイコウカ」


 何を言ってるのかわからずボヤッと夫(一応)を見ると、相手はビクッとした。


「ごめんなさい、打たないで」


「打たないよ。

旅行? 1人で行っておいで」


 謹慎中に躾たせいで夫(一応)は、私に恐怖を感じるようになったらしい。


 本人談では「執事に騙された」らしいけど、知らんし。容赦しないの大事。


 今は当主と夫人の立場に戻ってしまったので、もう叩けない。


 私達の年齢差は8つである。


「いや新婚旅行1人って」


「ソロ新婚旅行の第1人者になれるよ」


「それ、ただの旅行じゃなくて?」


「いいから働けよ、雑魚」


 そういうの王女様と行って、まで言わない私は優しい。


「奥様、敵襲です!」


 新しい執事のサルージ33歳が、執務室に駆け込んできた。

 シルバーアッシュの髪がお洒落。


「奥様のお姉様が先触れなしで、いらっしゃいました!」


「あの有名な?!」


 夫(仮)の疑問に答えず、私はフッと息を吐いた。







「寄越しなさい、旦那」


「いいよ」


 客間にて再会した姉妹の最初の会話(?)がコレである。


「だったら、さっさと家に帰りなさい」


「陛下に許可とった?

私は王命で仕方なく、ここにいるんだけど」


「オブシディアン辺境伯とアメジスト伯爵家の婚姻なんだから、妻は私たち、姉妹の誰でもいいのよ」


「『辺境なんか行きたくない』って言ったの自分でしょ」


「その時は、そう思ったの!」


「嘘つき。太って取巻きのヤリモク達が居なくなって焦って結婚しようと思ったけど、誰にも相手にされなかったから来たんでしょ? 21にもなって、まともな縁談があるはずないでしょ」


 横幅2倍になっとるわ。


 痩せてた時の姉は、淡い金髪にアメジストの瞳を持つ華奢な美女だった。


 女性は20、男性は25で婚期を逃したと言われる。


「うるさい! あんたがいなくなったら急に太ったの!」


「当たり前じゃない、栄養バランスに気をつけた食事作ってたんだから。どうせ偏食ばっかりしてたんでしょ」


「う……うるさいうるさい!

もう、ここの女主人は私よ! 出て行って!」


「一筆、書いて」


「は?」


「もし陛下に文句言われたら全責任取るって」


「それは……」


「殴るよ?」


「わ、わかったわよ!」





 私は嬉しくて嬉しくて、廊下をスキップした。


 姉、神じゃね? ネ申(*^o^)/\(^-^*)


 ──ドンッ


「あ、ごめんなさ……なんだ、謝る価値ないカスか」


 ぶつかったのは元(夫)だった。


「ごめん、カスで。

ずいぶん楽しそうだね」


「うん、そう。妻、交代したから」


「ああ、そっか。それで! って、えええええ!? 誰の誰と?!」


「姉」


「無理いいいいいいいいい」


「誰か来て! 領主様が乱心したから、地下牢にぶち込んで!」


 セキュリティが飛んできて元(夫)を連れて行った。








「ユーリア? 気付いた? 丸1日、眠ってたよ」


 目を開けると元(夫)の顔が……そう言えば荷造りして皆と別れを惜しんでたら、急に目眩がして……。


「過労だって。今まで頑張り過ぎたんだよ。

しばらく、ゆっくり静養して」


「……姉は? 仕事、覚えた?」


「逃げ帰った」


「はああああああっ?!」


 思わずベッドから起き上がる。


「うちの財務諸表、見せたら秒で帰ったよ」


「うううううううう悔しい悔しい悔しい」


「落ち着いて白湯でも飲んで」


「ううううう」


 涙と鼻水が同時に出る。


「新しいドレスでも頼みなよ」


「どこに、そんな金あるんだよ?

持参金(国から貰った婚姻支度金の1部)も賠償金(オブシディアン辺境伯の生家クウォーツ侯爵家が払った)貸付(領地経営の赤字補填)にしてて手元にないけど?」


「俺の個人資産から出す」


「敵から塩は受け取らない」


「敵じゃなくて夫」


「はぁ……寝る」


「ユーリアはトランク2個で嫁いで来たのに、義姉さんは馬車2台っておかしくない?」


「おかしくないよ。父は婿で、母は後妻だもん。元々姉の母の家だから」


「だけどユーリアは、領地経営の仕事手伝ったり家事をしてきたんだろ。

今回の結婚で国から貰った支度金も、ほとんど実家の借金返済に充てて……見ていて不憫」


「いや、あんたの妻でいることが1番不憫。オヤスミ」








「こんなに、たくさん買ったの?」


 私の部屋にはドレス、アクセサリー、裁縫箱など新しい物が並んでいる。


「快気祝い」


 童顔のドヤ顔、憎たらしい。


 王女は、この顔が好きなのか……整ってはいるよね。


「でも……」


「これ着て視察に行こう。そしたら経費になるから、俺から貰ったことにならない」


「ふう……まあいっか。退職金の1部として貰おう」


「専業主婦になるの?」


「2年3ヵ月後、離婚する時の話」


 この国では3年の白い結婚で離縁できる。


「それ……考え直さない?」


「辺境伯として結果を出せば王女の降嫁、考えて貰えるんじゃなかった?」


「そうだけど決定じゃないから、このままユーリア一緒に居ればいいかなって」


「2週間かけて王命で嫁いできた相手を出迎えも挨拶もせず、結婚式も御披露目もせず、女主人としての部屋と権限も与えず最低限の餌だけで物置に放置した上に、初対面が『親に挨拶しろ』で怪我人に向かって間男だと叫び、力ずくで城外に放り出す人とは、一緒に生きていかない」


「それはっ、最初はカナエラ様(王女)が好きだったから。

それに山小屋で暮らしてるのも知らなかった。離れに案内したと言われて。だから、てっきり……ちゃんと夫人予算も組んだのに着服されてた。俺は被害者だ!」


「お前が誰を好きかなんて私には関係ないんだよ。他人なんだから。こっちも好きで嫁いできたわけじゃないんだよ。自分の無礼で非常識な行動理由を、恋愛にしてる時点で頭おかしいんだって。本当に成人してるの?


護衛が護衛対象を好きになることもあるだろう。でも良識ある人は15やそこいらの王女に手を出して騎士爵すら持ってない侯爵家の次男の分際で嫁にくれ、なんて言わないんだよ。職場は仕事しに行く場所であって発情しに行く場所じゃないんだ。だからお前は辺境に左遷されたんだよ。お前が誰を好きでも構わないけど、それで他人が迷惑被る筋合い無いんだよ。自己責任の範疇で行動するのが人間なんだよ。


セバスチャンのことだって、たったの1度も自分の目で確認すらしないアホだから足下見られたんだよ。子供でもわかる嘘に騙されたのも、非常識なのも甘いのも、忠誠心を育てず舐められたのも全部お前の責任。初日に挨拶に出向いてれば逮捕されなかったよ」


 私は一気に喋りきると、息を吐いた。


「やり直したいなら、私以外を伴侶に選べ。同じレベルの相手を。

微笑みかけて優しくして少し貢げば、取り返しのつかない失態も忘れて微笑み返してくれるチョロい女を探せ」



 それから夫(離婚確定)は、仕事以外で話しかけて来なくなった。


 ようやく正常な状態になったと思ったら、また波乱!





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ