表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4




 荷馬車に近いボロ車から、御者の手を借りて降りる。


 門番が慌てて取り継ぐと、執事らしきロマンスグレーの男が館から出てきた。


 私をエスコートした御者は、たった2つしかないトランクを投げ捨てるように、地面に置いて逃げ去った。


 まあ、それは想定範囲。


「ユーリア・アメジスト伯爵令嬢で、お間違いないしょうか?

私は当家の執事セバスチャンでございます」


 覚えやすい名前で良かった。


 良かったけど、1ミリも歓迎されてない! 目が笑ってない。出迎えが1人&丁寧なのは口調だけ。


「ええ、私がユーリアです。

よろしくセバスチャン」


「では、お住まいの方に案内します。

馬車に、お乗りください」


 馬車? 目の前に城が見えてるけど?





 実家のボロ馬車よりマシな乗り心地で揺られること3分。


 森の入口? に来た。


 目の前には、狩人が休憩に使うような掘っ建て小屋。


 セバスチャンは、私の2つしかない荷物を持つと当然かのように、その小屋の中へ運んだ。


「1ヵ月分の食料と、生活に必要なものはあります。

井戸も古いですが使えます。

1ヵ月後に食料の補充があります。


母屋には来ないでください。

他の使用人たちも、招かざる客に気分を害するでしょう。


敷地の外には出られません。門番に言いつけてありますので」

と、頭を下げて馬車に乗り込もうとする。


「王命の意味わかってるの?

私は陛下の命で、ここに来たのよ」


「命令は旦那様とアメジスト伯爵令嬢の婚姻であって、その後の生活を保証ではありません」


「屁理屈じゃない」


「ならば、本城で使用人たちから嫌がらせされる毎日を送りますか?

我が主人は、元々王女殿下の護衛であり恋人だったのに、それを陛下によって引き裂かれ辺境へ追いやられたのです。

この家の女主人の座も旦那様の心も王女殿下のものであり、あなたが愛されることはありません」


「だから?」


「は?」


「愛されるために来たわけじゃないわ。

王侯貴族の婚姻なんだから当たり前でしょう。

『使用人が気分を害する』?

そんなバカ、クビにするに決まってるじゃない。

足りない人員は王宮に派遣要請するわ。

私を、ここへやったのは陛下なのだから責任とってもらわないと。

早速あなたはクビよ、さよならセバスチャン」


「っ……そんなこと旦那様が御許しになるはずない!

あなたは何の権限もない、お飾りの妻なんだ!

調子に乗るな!」


「口で言ってわからないなら折檻ね」

と、スカートの中から鞭を出し、セバスチャンに向けて放った。


「ああっ」


 いきなり鞭が来ると思っていなかったセバスチャンは逃げ遅れ1発喰らったが、すぐ馬車の中へ逃げて内鍵をかけた。


 私が外からドアを蹴ると歪んだので(靴の裏に鉄板を仕込んでる)体当たりしようとすると、馬車は私を振り切って逃げ去った。


 先に御者を動けなくすべきだった。


 鞭は、友人のリリーから「何事も容赦するな」というメッセージと共に結婚祝いとして貰った。

 辺境伯城に到着して5分で役に立った。




 私は、とりあえず小屋に入った。


 ベッドと鍋と食器。それに小麦と干し肉。広さは4平米。


 うん……? 囚人の方がマシな生活してるかな?


 戦をするにも、まず移動の疲れを癒さないといけない。


 私は防犯道具をセットして眠りについた。





 ──カランカランカラン


 音と気配で目が覚めた。


 寝たふりをする。


 真っ暗でよく見えないが、足音と呼吸が近づいてくる。


 間近に襲いかかって来たソレの首に、私は毒針を刺した。


 侵入者は数秒、踠いてすぐ倒れた。


 猛毒だが、針先に着いてる量で即死はしない。助かりもしないけど。


 灯りをつけると、門番らしき格好をした男だ。


 大方あの執事に、何か吹き込まれたんだろう。想定内。


 辺境は野蛮なので、きちんと事前準備しておいて良かった。

 

 私は男を後ろ手に縛って床に転がした。






 明るくなってから、近くを散策した。


 城壁に隠し扉を発見したので出てみる。


 恐らく、このまま森の奥へ行けば隣国か城下町に逃げられるだろうが、その前に獣に殺されるだろう。


 しかし、薬草や珍しい花がありそうだ。



 山菜をとりながら行ける範囲で探索する……と、男が落ちている。


 汚れているが、身なりは悪くない。黒づくめで怪しいけど。


 拾った棒でツンツンすると、呻いたので生きてもいる。


 ボロボロの服を脱がすと、あちこち怪我していた。


 介抱しようにも、私1人では運べない……立派な毛並みの大馬が近づいてきた。


「この人、飼い主?」


「ヒヒーン」








「ふう」


 私は額の汗を拭った。


 なかなか話のわかる馬に手伝って貰いながら男を介抱し、昨夜から床に転がしていたゴミも外に出した。


 馬に乗って母屋に行き、使用人に医者を呼ぶよう言ったが無視するので、必要な薬やリネンなどを勝手に持って戻った。









「君は……?」


 夕飯の匂いにつられたのか、拾った男が目を覚ました。


「ユーリア。あなたは?」


「……ダリ」


 介抱してる時から美しいと思ってたけど、目を開くと尚更美男だった。


 紫がかった黒髪に紅い目。男らしい面長の輪郭に凛々しい眉、高い鼻。


 20代半ばだろうか。落ち着いて見える。


「そう。相棒は?」


「え?」


「ヒヒーン」


 大馬が窓から顔を覗かす。


「ああ、ゼブラ! 良かった」


 全身、黒いけどね?


「……いいネーミング・センスね。

食事できる? たいしたものないけど」


 私は貴族令嬢だが、実家が貧乏で家事をしていたので最低限のことはできる。


 つまり侍女を付けず1人で嫁いできたのは、侍女を雇う金がないから。








 2週間程してダリは、万全でないものの動けるようになった。


「森で剣を探してくる」


 拾った時には帯刀してなかったが、落としたらしい。


 山菜や薬草を摘みに隠し扉の外に出ているが、見かけたことない。


「え? もう少し良くなってからにしたら?」


「そういう訳にもいかないんだ。

この城の敷地、治安悪いし」


「そう。気をつけてね」



 彼が出掛けて少しすると、来客があった。


 私は3m鞭を構える。

 (鞭は4種類ある)


「う、う、う、打たないでください。

違います! 伝言です!」


 最初にここへ来た時、執事と逃亡した御者だった。


「『10日後に両親が来るので、用意しておくように』」


「は?」


「伝えましたんで!」


 私は逃げ行く御者の背に怒鳴る。


「待ちなさい! どこに誰の親が何しに来るって?」


「旦那様のご両親です! 挨拶に!」


「はんっ。ふざけやがって」


「も、これで失礼しますっ!」


 ピゅ~っと効果音と共に、御者は消えていった。










 10日後。


「おい! いつまで待たせる気だ?! こんな所で何を……」


 ノックも無しにいきなり入って来た男は、団欒中の私達を見て固まった。


 ライトブラウンの癖毛と焦げ茶の目。24歳のはずなのに童顔で10代に見える。


 鍛えてるようだけど、身長は170の私と同じくらい。ちなみに男性の平均身長は175、女性は165。


 この人がクレセント・オブシディアン辺境伯でしょうね。戸籍上の夫の。


「小屋に籠って親に挨拶もしないと思ったら、男を引き入れるなんて、この売女が!!

出ていけ! 2度と顔を見せるな!

摘まみ出せっ!」


 夫(仮)の後ろに付いてきていた屈強な辺境騎士達が、私達を小屋から力ずくで引きずり出し門外へ捨てた。


 荷物を返せと叫んだが、門は堅く閉ざされ梨の礫。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ