第1章 第8話「村の少年」
第1章『異世界への起動』
第8話「村の少年」
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ゴブリン退治のクエストに向かう前に、準備運動がてら村の広場に行ってみた。
スライムと戦ってから、体を動かすのがクセになってきてる。筋肉痛すらちょっと気持ちいい。変態か?
「おーい! そこのあんた、見ない顔だな!」
声の方を向くと、俺と同じくらいの年の少年が、木の剣を担いで立ってた。
茶色の髪、快活な目つき。
見た目は村の元気少年って感じだけど――なんか、ただ者じゃない空気を纏ってる。
「お前、冒険者か? なら、手合わせしようぜ!」
「え、急だな!?」
「俺、カイってんだ! この村じゃ有名な“英雄の孫”なんだぜ!」
「情報量が多い!」
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なんかよくわからんまま、広場での模擬戦が始まった。
木の剣 VS 鉄の片手剣。
――こいつ、めちゃくちゃ速ぇ。
「なんだよ、その動き……本当に村人か!?」
「ははっ! じいちゃん直伝の剣術、舐めんなよ!」
……手加減してたのに、3回くらい当てられて、俺の完敗。
「ま、俺が本気出したらこんなもんさ!」
「……言っとくけど、俺はレベル2な。お前、いくつよ」
「1だよ。冒険者登録はまだしてねぇ。でも、この村で一番強いぜ?」
「それ、一番ダサい自慢だよ」
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そのあとも少し話してみたんだけど――
カイ、実はこの村で“ちょっと浮いてる存在”らしい。
理由は簡単。強すぎるから。
同年代の子どもたちと遊ばず、いつも1人でトレーニング。
大人たちも「またカイが暴れてる」とか言って避け気味。英雄の血筋って、案外孤独なんだな。
「でもさ、お前は違うな。お前は……なんか、俺に似てる」
「は? 俺、地味で平凡で冴えないタイプだぞ?」
「だからだよ。俺もそうだった。剣を持つまでは、ずっと普通だった」
「いや、“英雄の孫”が普通って、だいぶズレてね?」
「へへっ、じゃあ、俺たち仲間だな」
――なんだこいつ、いいやつじゃん。
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その日の夕方、俺はカイを誘って一緒に冒険者登録所へ行った。
「俺、次のクエストでゴブリン倒しに行く。よかったら、一緒に来ない?」
「マジ!? 行く行く! ってか、誘われたの初めてだ!」
キラキラした目で言うなよ。こっちが照れるわ。
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こうして、俺には初めての“同世代の仲間”ができた。
強くて、ちょっとお調子者で、でも根はまっすぐなやつ。
この出会いが、後に“運命”を大きく動かすことになるなんて、今の俺はまだ知らない。