第4章 第2話「沈黙の神殿」
第4章『封印された遺跡』
第2話「沈黙の神殿」
――街の北東、深い森の奥。
木々をかき分け、獣道を抜けた先に、それはあった。
「……これが、古代神殿……か」
広がる苔むした石段。崩れかけた柱。
その中央にぽっかりと開いた、黒い穴のような入口。
どこか、空気が違った。湿気と冷気、それと……説明できない重み。
「この遺跡、“封印の遺構”って呼ばれてる。今は無人だけど……昔は王家の魔法研究施設だったって話」
と、リラが静かに言う。
「なんでそんなのが、森の奥に放置されてんだよ……」
カイが眉をひそめる。
「放置されたんじゃない。“閉ざされた”の」
リラは言葉を切って、険しい顔で俺たちを見た。
「中に、“何か”が封じられてる。魔力が異常に濃いの。だから、王都の研究者すら近づかない。……けど、最近になって封印がゆるんできてる」
「だから調査に……俺たちが呼ばれた、ってわけか」
俺は剣の柄を握り直す。
レイはずっと黙っていたが、神殿を見つめるその目は、何かを感じ取っているようだった。
「レイ、平気か?」
「……重い。中」
短くそう答えると、彼女はそっと腰の剣に手をやった。
(ああ、やっぱり……ただの遺跡じゃねぇな)
クルトが一歩前に出て、軽く咳払いをした。
「いいか、今回の任務は“調査”だ。封印の様子を確認して、内部を地図に起こす。深入りしてもギルドはは責任を取らない。いいな?」
「……了解」
俺たちは頷き合い、クルトの視線を背に感じながら神殿の中へと足を踏み入れた。
⸻
中は静まり返っていた。
天井が高く、音が吸い込まれていく。石の床を踏む足音が、やけに響く。
「なあ……なんか、寒くねぇか……?」
カイがぽつりと呟く。
「魔力が凝縮してるの。いわゆる“霊圧”に近いわ」
リラが答える。表情はいつもの皮肉まじりではなく、真剣だった。
数分歩いたところで、分かれ道が現れた。
「こっちは封鎖されてるな。あっちは……」
カイが左の道をのぞきこもうとした、その時――
「ケン、来て」
レイがすっと俺の袖を引いた。
「……?」
レイの指差す先には、薄い罠の気配。
光の層がうっすらと床に張られていた。
「見えてんのか、それ……」
俺はあわててカイを止める。
「こっちは、通れない」
レイはぽつりとそう言った。
「さすがだな、レイ。……こっちから行こう」
俺たちは安全な右の通路を選び、さらに進む。
⸻
そこは、広い円形の部屋だった。中央には封印魔法陣があり、周囲の壁には古代文字が刻まれている。
「この魔法陣……もう、機能してない」
リラが近づき、手をかざす。
「これが“封印”か。壊れてるなら、もう中身が出た後……とか?」
「あり得る。封じられてたものが動き出してるなら、今ごろ外に“影響”を及ぼしてるはず。……魔獣の異常行動も、これが原因かも」
リラの言葉に、場の空気が重くなる。
と、突然。
部屋の奥、暗がりの中から――ギギッ……と、何かが動く音が響いた。
「構えろッ!!」
俺の声に反応し、全員が武器を抜く。
――影のようににじみ出る、黒い獣影。
それは、魔法陣の残滓から生まれた“魔造獣”だった。
「まさか……封印の副産物かッ!」
リラが叫ぶ。魔法詠唱に入る。
「レイ、左から回れ!」
「……了解」
戦いが始まった。
しかし俺たちは、以前のような不安定な連携じゃない。
バジリスクを倒し、街で鍛え、互いを信じられるようになった。
今の俺たちなら――この試練も、乗り越えられる。
(この神殿の奥に、まだ何が眠ってるのか――)
心の奥で、不吉な予感が脈打つ中。
俺たちは封印された遺跡のさらに深部へと、踏み込んでいく。




