第3章 第17話「黒街の“結印”」
第3章『街と騎士団』
第17話「黒街の“結印”」
地下道の空気は、重かった。
空気が動かず、湿って、ひんやりしている。鼻の奥に、鉄とカビのにおいがまとわりついた。
俺たちは、無言のまま進んでいく。
足元には砕けたレンガと、古い血の跡。
長く使われていないはずなのに――この通路には、確かに“誰か”の気配があった。
「……見ろ、あれ」
レイが指差した先には、壁に刻まれた古い印。
三重の円に、蛇のような文様。中央には、赤黒く変色した紋章の痕。
「黒街の“結印”だ」
リラが小さくつぶやく。
「これは……禁術に関わる場所につけられる印よ。つまり、この先には……」
「禁術……?」
「人を変える術、魂を削る術、常識じゃ考えられない闇の魔法……。魔法学院でも、絶対に扱っちゃいけない禁忌。それを売買してる組織ってのが“黒街”」
「……そりゃ、騎士団が敵視するのも納得だな」
カイがぼそりと言いながら、剣を握り直す。
地下道の先に続く扉を、俺は静かに押し開けた。
ギイィ……という不気味な音と共に、冷たい空気が流れ込む。
そこは、地下室だった。
石の床に、ぐるりと円形に配置された魔法陣。
そして、その中心には――
「……子どもが……!」
十歳にも満たない少女が、意識を失って横たわっていた。
身体の周囲には、見たこともない紫の光が漂っている。
「間に合ったか……!」
リラが駆け寄ろうとしたそのとき――
「おやおや。随分と足の早いお客様だなぁ」
声が、響いた。
その場に現れたのは、黒衣をまとった痩せた男。
目元を布で隠し、笑っているのか怒っているのかわからない表情。
「こいつは儀式の“器”だ。……邪魔をされては困るな」
「ふざけんな! 子どもを何だと思ってる!」
カイが一歩前に出た瞬間、男が杖を振る。
「“転移・影歩”」
――次の瞬間、男の姿が消え、俺たちの背後に現れた。
「ちっ、速い……!」
「禁術だ。普通の転移じゃない!」
リラが叫ぶが、男は不気味な声で笑った。
「お前たち、少しばかり優秀だな。……ならば、“試して”みよう」
彼が手をかざすと、魔法陣の光が広がり――
召喚されたのは、黒く変質した魔獣。
三本の尾と、禍々しい角を持つ、異形のバジリスクだった。
「こいつは……!」
「模擬戦じゃねぇぞ、今度は……!」
俺たちは剣を抜いた。
ここでやらなきゃ、あの子は助けられない。
「レイ、頼む!」
「…………うん」
レイは無言で剣を抜き、影のように前へ走った。
「いくぞ……!」
闇の中で、再び戦いが始まる。
――“黒街”との、本格的な激突が幕を開けた。




