第3章 第16話「セイントラの深部」
第3章『街と騎士団』
第16話「セイントラの深部」
騎士団の詰所の一角――
薄明かりの中、俺たちは副団長レオナルドの前に立っていた。
「……見事な働きだった」
副長は静かに口を開いた。
「クルトの決断も、それを信じて動いたお前たちも、街にとっての希望だ。おかげで“黒街”の末端とはいえ、明確なルートをひとつ断てた」
「けど……まだ“末端”なんですよね」
カイが言うと、レオナルドは深くうなずいた。
「そうだ。“黒街”――それは、単なる犯罪組織ではない。この聖都セイントラの地下に巣食う、古く深い影だ。表向きは商会や慈善組織を装い、裏では人身売買や禁術の流通を行っている。……だが、その正体はいまだ掴みきれていない」
「……そいつらが、騎士団の中にも手を伸ばしていたってことか」
「今回捕えた者の証言と、クルトの手柄により、内部調査が正式に始まる。だが、動きは慎重にならざるを得ない」
副長は手元の地図を示した。
「そこで、お前たちにもう一つ、依頼したい」
* * *
俺たちが任されたのは、セイントラの“旧市街”の調査だった。
石畳の崩れかけた路地、くたびれた建物、治安の緩んだ区画。華やかな中央広場とはまるで別の都市のような雰囲気だった。
「このへん……ちょっと嫌な空気するな」
カイが肩をすくめる。
リラも警戒しながら、背中の杖を握りしめる。
「このあたりは、黒街の“外縁”って呼ばれてるらしい。子どもの失踪事件も、この路地で何件か起きてるの」
「……あっち、誰かいる」
レイが目線だけで示す先に、小さな影が一つ――痩せた少年が、路地の隅で物乞いをしていた。
俺はそっと近づき、膝をついて話しかける。
「やあ。驚かせてごめんな。……ちょっと聞きたいことがあるんだ。最近、誰かに“連れて行かれた”子どもって、見たことある?」
少年はしばらく黙っていたが、ふと小さくうなずいた。
「……いたよ。夜に、黒い服着た大人が……女の子を連れてった。泣いてたけど、誰も止められなかった」
「どこに?」
「西の方の……“地下道”に入っていった。古い井戸の近くに、隠し扉があるんだ」
俺たちは礼を言い、すぐさま現場へ向かった。
そして――確かに、あった。
崩れかけた石井戸の脇、雑草の陰に隠れるようにして、地下へと続く小さな扉が。
「……ここから“黒街”の本拠地に通じてる可能性があるな」
「……行くしかねぇだろ」
カイが剣を抜き、リラが頷く。
「子どもを攫うようなやつら……絶対に許さない」
「…………」
レイは、無言のまま剣の柄を握り締めていた。
俺たちは互いにうなずき合い――
扉の先、暗い地下通路へと足を踏み入れた。
――セイントラの“深部”。そこに潜む、本当の闇を暴くために。




