第3章 第15話「裏切りの刃」
第3章『街と騎士団』
第15話「裏切りの刃」
「……あんた、あのときの騎士……!」
俺が声を上げると、男――銀兜の騎士は静かに笑った。
「覚えていてくれて光栄だ。お前たちには、少しばかり興味があってね」
そう言って、男はローブの奥から一通の封筒を取り出した。
「これはレオナルド副団長宛の密書だ。直接、本人に届けてほしい。……内容は、例の“黒街”との内通に関する証拠だ」
「は? それ、本当か?」
カイが半歩踏み出す。だが、男は表情一つ変えず、こう言った。
「信じるかはお前たち次第だ。ただ――時間はない。今夜、騎士団の誰かが裏切る」
「…………」
俺たちは顔を見合わせる。
一見、正義の内部告発のような話。だが、どうにも引っかかる。
「なんで、俺たちに?」
リラが眉をひそめて尋ねると、男はにやりと笑った。
「お前たちはまだ“街の色”に染まっていない。……だからこそ、選んだまでさ」
(……うさんくさすぎる)
俺の中で警鐘が鳴りっぱなしだった。だが、レオナルド副長に渡すべき情報だというなら、確認する価値はある。
「……わかった。その密書、預かる。ただし、あんたが敵だったら――覚悟しておけよ」
「もちろん」
男はあっさりと封筒を渡し、その場を去っていった。
* * *
詰所に戻った俺たちは、すぐさまレオナルド副長の執務室へと向かう。
「……“あの男”からだと?」
副長は眉をひそめ、封筒を開いた。
中には数枚の文書と、1枚の地図。そして――名の伏せられた“裏切り者のリスト”。
「……これは……」
「副長……これ、マジですか?」
カイの問いに、レオナルドは重くうなずいた。
「この中の一つ……これは私しか知らない情報だ。……つまり、これは本物だ」
緊張が走る。
「となると、“今夜”ってのも……」
「――十分ありえる。全員、準備を整えろ。今夜、裏切り者をあぶり出す」
副長の指示で、緊急配備が敷かれる。
詰所の奥にある、騎士団の作戦会議室には、信頼の厚い騎士たちが次々と集められた。
* * *
深夜――。
俺たちは指定された“南門近くの倉庫”に潜伏していた。そこが、“取引現場”だと密書に書かれていたからだ。
「……来た」
リラがささやく。
フードを被った数人の影。そして、その中央に立つのは――
「……クルト……!?」
信じられない光景だった。
クルトが、黒装束の男たちと話している。
(まさか……裏切り……?)
俺の胸がざわつく中――
「動くぞ!」
副長の合図と同時に、騎士たちが一斉に包囲に飛び出す。
「動くな! 騎士団だ!」
「くそっ、罠か……!」
黒装束の男たちが逃げようとするも、すでに出口は封じられていた。
だが――クルトは、動かなかった。
「……ああ。これで、終わりだな」
クルトはゆっくりと手を挙げた。その手には、俺たちに渡された密書と同じ封筒。
「副長……俺が渡したのは、ダミーだ。本物の証拠は……こっちにあります」
「…………!」
クルトは、黒装束の“内通者”に見せかけて、わざと情報を漏らし、自らを囮にしていたのだ。
「……やっぱ、クルトさんはそうでなくちゃな」
俺は心の中で息を吐き、ゆっくりと剣を収めた。
――これで、“騎士団の懐”に潜んでいた影の一部が、ようやく浮かび上がった。
けど、戦いはまだ終わらない。




