第3章 第14話「動く影」
第3章『街と騎士団』
第14話「動く影」
――その夜、セイントラ北区・とある倉庫裏。
「……“やりすぎ”じゃないのか?」
低い声が、闇の中でささやかれる。
「問題ない。あの小僧どもが余計な真似をした以上、次の一手を打つしかない」
答えたのは、黒いローブに身を包んだ男。顔は見えないが、その声には冷え切った怒気がこもっている。
「だが……騎士団が本格的に動けば、こちらのルートも……」
「その前に、こっちから“騎士団の懐”を潰す。……そろそろ、“裏切り者”にも動いてもらおうか」
男は薄く笑い、懐から一枚の紙を取り出した。
――そこには、騎士団副長・レオナルドの顔と、赤く引かれた×印があった。
* * *
翌朝、俺たちは再び騎士団詰所に呼び出されていた。
「……昨夜、物資倉庫が一つ、放火された。証拠はないが、おそらく〈黒街〉の報復だろう」
クルトが、報告書を読みながら言う。
「報復、早すぎじゃね?」
カイが眉をひそめる。俺も同感だった。
「それだけ、昨日の一件が効いたってことだな。つまり、連中も焦ってるってわけだ」
レオナルド副長が言いながら、資料の束を机に叩きつけた。
「今後、連中は“こちら側の人間”にも手を伸ばしてくる。……特に、お前たちのような動く新人にはな」
「……じゃあ、こっちも先に動くしかないですね」
俺が言うと、レオナルドは無言で頷き、封筒を一つ取り出した。
「次の任務は、南区の“貿易街”だ。最近、妙な人間の出入りが増えているという情報が入っている。監視と、必要なら排除。……ただし、騎士団とは名乗るな」
「潜入捜査ってやつか」
リラが真剣な表情で呟く。
一方レイは、黙って腰の剣を握っていた。
* * *
その日の夕刻、俺たちは貿易街に足を踏み入れた。
ここは、商人たちと物流の中心地。
騎士団派というより、〈商会連合〉の影が強いエリアだ。
「……妙に静かだな」
カイの言葉どおり、普段にぎやかなはずの市場は妙に落ち着いていた。
代わりに、通りの角ごとに“黒いフード”の人物たちが立っている。
(明らかに、見張られてる……?)
俺たちは自然を装って市場を歩くが、緊張は高まる一方だった。
「こっち」
レイが小さく指をさす。
裏路地へ通じる細い路、そこに微かに――“誰かの気配”。
俺たちは互いに頷き合い、静かにその奥へと足を踏み入れる。
……その先に待っていたのは、予想外の人物だった。
「……やあ。また会ったね」
月明かりの下、フードを外したその男の顔。
それは――以前、城門で俺たちに“試験”という名でバジリスク討伐を命じた、銀兜の騎士だった。
「副団長に会わせろ。話がある」
まるで、最初から待っていたかのような、冷静で、どこか不自然な口調だった。
――これは、罠か。それとも“揺さぶり”か。




