第3章 第12話「牙を抜く者たち」
第3章『街と騎士団』
第12話「牙を抜く者たち」
夜、月も隠れる雲の下――。
俺たちは“猫のひげ亭”のナーヴァから受け取った地図を頼りに、郊外の廃工房へと向かっていた。
「ここ……で間違いないな」
鬱蒼とした林の奥、朽ちた木造の建物。
だが、窓の奥にはかすかな明かりが漏れている。
「見張りが2人。扉の内側にもう3人。……奥には、もっといる」
レイが囁くように言った。
「レイ、お前が先に“抜く”か?」
「……うん」
闇に紛れて、彼女の姿がすっと消える。
次の瞬間――
「……っ!」
建物の影から、倒れ込む影。
「一人。眠った」
「“眠った”、ねぇ……」カイが苦笑する。
静かに近づくと、もう1人の見張りも崩れ落ちていた。剣傷はない。だが、息はある。
「毒か?」
「気絶だけ。……私、殺すの苦手」
レイが小さく呟く。
その瞬間、俺の胸の奥で何かがじんと響いた。
――戦う理由は違えど、レイはレイなりの“線”を引いてるんだ。
「よし、俺たちも行くぞ。音は立てるな」
* * *
廃工房の中は、予想以上に整っていた。
壁に並ぶ帳簿、薬草、錬金釜。表向きは薬屋を装っていたのかもしれない。
「誰か、いる……!」
リラが囁いた直後、奥の扉が開いて、男たちが数人姿を現す。
「……チッ、騎士団じゃねぇな。誰だテメェら」
「悪いが、こっちから“牙を抜きに来た”んだよ」
俺の言葉と同時に、戦闘が始まった。
――が。
俺たちは既に“格”が違っていた。
「はっ!」
カイの渾身の一撃が、一人を壁ごと吹き飛ばす。
俺は“渾身突き”で正面の男を床に沈めた。
レイは背後から静かに近づき、無音の動きで一人、また一人と眠らせていく。
「フレア・ロック!」
リラが小声で呪文を唱え、敵の足元に赤い魔法陣が出現。重力が増したように、相手は動けなくなる。
「おおおっ、くそっ……体が、重いッ……!」
その隙に俺が駆け込み、一撃を叩き込む。
「終わりだ!」
10分もしないうちに、建物の中の敵は全員沈黙した。
* * *
「ふぅ……終わったな」
肩で息をしながら、俺は壁にもたれかかる。
部屋の奥から、レイが小箱を手に戻ってきた。
「毒薬。……裏仕事の道具。全部、潰す?」
「いや。証拠としてクルトに渡す。街の中でこいつらを放置しちゃいけねぇ」
カイがうなずきながらも、複雑な顔をして言う。
「けどよ……こんな拠点、街中にいくつあるんだか。いたちごっこだな」
「でも、今夜のこれは……“警告”になる」
レイの低い声が、静かに響いた。
「うん。あいつらも、私たちが“黙ってはいない”ってこと、分かったはず」
リラが頷き、にこりと笑う。
その表情は、魔法少女というより、もう一人の“冒険者”のようだった。
――こうして、黒街の末端は一つ、牙を失った。
けれど。
これはまだ、序章にすぎない。
街の闇は、もっと深く、もっと冷たい。
そして俺たちは、知らず知らずのうちに――
その核心に、足を踏み入れ始めていた。




