第3章 第8話「影の蠢き」
第3章『街と騎士団』
第8話「影の蠢き」
――翌朝。
俺たちは、街の中心区――議会棟の外で集まっていた。
今日は、避難民の入城に関する“特別審議”の初日。
市の有力者や騎士団、魔導塔、そして貴族代表が出席する、いわば都市全体の意見を問う場だった。
「すげぇ……」
カイが口を開く。
目の前には、堅牢な石造りの建物と、威圧感のある門。
その前には、すでに多くの民衆や兵士たちが集まっていた。
「騒ぎになってんな……。やっぱ、ただの“手続き”じゃ済まねぇか」
「……うん。聞いたよ。入城を反対してる貴族も多いって」
そう答えたのは、リラだった。
彼女は今日も、紫がかった法衣をまとい、俺たちと並んでいた。
「理由はさまざま。“治安が悪化する”“感染症のリスクがある”“食糧が不足する”……表向きはそう。でも――」
「でも?」
「……ただ、貧しい人たちが街に入ってくるのが“気に入らない”ってだけの貴族もいる」
リラの声は静かだったけど、その奥に、確かな怒りがあった。
「俺たちに、できることは?」
「……この先、民の信頼を得ること。君たちはすでに戦果を挙げた。次は、“街の役に立つ存在”として、認めさせるの」
リラが言ったその瞬間――
「失礼。お前たち、“新入り”の冒険者か?」
突然、後ろから声がした。
振り向くと、黒い外套に身を包んだ男が立っていた。
一見、ただの中年に見えるが……その目だけは異様に鋭く、どこか獣じみた雰囲気を感じる。
「……どちら様?」
俺が尋ねると、男は薄く笑った。
「ただの市の“観察者”さ。……最近、この街で“異質な流れ”が増えていてね。君たちの存在も、その一部かと思ってな」
「異質な……?」
「バジリスクの討伐。街中での戦闘。特別審議。……流れが速すぎる。誰かが意図的に“物語”を動かしているようにも、見える」
男は俺たちを見つめたまま、声を落とす。
「気をつけな。英雄は、すぐに“標的”になる」
「……何が言いたい?」
レイが一歩前に出る。
男はそれを面白そうに見て、ふっと目を細めた。
「いや、警告さ。……この街には、“魔物”より厄介なものが潜んでいる。たとえば、“人間”とかね」
そう言い残して、男は人混みに紛れて消えていった。
「なんだったんだ、あいつ……」
「ただの市民じゃなさそうだったな」
俺たちは目を見合わせる。
不気味な言葉。謎の気配。そして、確かに――街の空気が、少しずつ変わり始めている気がした。
* * *
夜。
議会棟では、審議が続いていた。
貴族席の一角で、レオナルド副長が腕を組む。
その隣、別の議員が声をひそめて言う。
「どう思う? 奴らの功績で、避難民を入れるか?」
「功績は事実だ。だが……その“裏”が気になる」
「裏?」
「バジリスクの出現も、“彼らが通過した直後”だ。街中での騒動も、彼らが関与していた。そして今、特別審議まで導いている……」
「まさか、“仕組まれた英雄”だと?」
「……何かがある。背後に“手を引く者”がいなければ、ここまで急には動かない」
レオナルドの視線が、夜の空へと向く。
(……この街に、“もう一つの意志”が動いている)




