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第3章 第7話「それぞれの矜持」

第3章『街と騎士団』


第7話「それぞれの矜持きょうじ


――ギルドの応接室。

戦闘の報告を終えた俺たちは、しばしの休憩を取っていた。


 


「にしても……街での戦いって、やっぱ勝手が違うな」


椅子にどかっと腰を下ろしながら、カイがぼやく。

確かに、バジリスクとの野外戦と比べて、今回は市民の安全や建物の被害も気にしながらの戦闘だった。


 


「焦るし、邪魔も多いし……足手まといってのは、こういう時のこと言うんだな」


「でも、無事に済んでよかったよ。誰も死ななかった」


「ま、それは……リラのおかげでもあるな」


 


リラ。

今日初めて出会った、魔導特務隊の少女。


彼女の魔法は精密で、無駄がなく、しかも美しかった。

まるで“魔法の理想形”を見せつけられたような気がした。


 


「……」


ふと、横を見る。


レイは窓際に立ち、外をじっと見つめていた。


無表情。でも……どこか、張り詰めた気配があった。


 


「なあ、レイ」


俺が声をかけると、彼女はわずかに顔を向けた。


「リラのこと、気になる?」


少しの間――沈黙。


そして、


「……別に」


短く、そっけない返事。


だが、視線の先は、遠くの魔導塔の方向だった。


 


「ま、そりゃ気になるよなぁ。実力も実績もある“街の英雄”だぜ? 俺らみたいな新人と並べるもんじゃない」


カイの言葉に、レイはピクリと肩を揺らした。


だが、返事はない。


 


* * *


 


夕刻。

俺たちはセイントラ騎士団本部へと呼び出された。


通されたのは、石造りの重厚な会議室。

そこには――すでに、副長レオナルドと、リラの姿があった。


 


「ようこそ。早速だが、結論から伝えよう」


レオナルドが静かに口を開く。


「君たちの働きとバジリスク討伐の功績により、避難民の入城申請は“特別審議”にかけられることになった」


「特別……ってことは……?」


「通常よりも速やかな決定が下されるということだ。結果は数日中に出る」


思わず息を飲む俺たち。


 


「だが……その分、“注目”も集まる」


レオナルドの目が鋭く光る。


「市民の声、貴族たちの都合、そして……騎士団の面目。街の中は、ただ戦えばいい場所ではない。君たちの動き一つが、今後の評価に繋がることを忘れるな」


まるで試されているような、言葉。


俺たちは静かに頷いた。


 


その時、リラが口を開いた。


「私、応援してるからね。避難民の人たちの話も聞いたし……君たちの願い、きっと正しいと思う」


その笑顔はまっすぐで、曇りがなかった。


けれど――


「……」


隣のレイは、口を閉ざしたままだった。


その視線は、ずっとリラの方に向いていた。


 


* * *


 


その夜。

宿の屋上で、レイが一人、剣を振っていた。


月明かりの下、静かに、ひたすらに。


俺はそっと後ろから声をかけた。


 


「レイ。……焦ってるの?」


彼女は、一度だけ振り返る。


そして――


「……ちがう」


「じゃあ、なんでそんなに……」


 


「“勝てなかった”だけ」


ぽつりと、言葉がこぼれた。


「魔物を倒したのは……あの子。私は……間に合わなかった」


彼女の声には、悔しさがにじんでいた。


 


「別に、羨ましいわけじゃない。ただ――」


「……次は、絶対に“私”が守る」


 


その目は、真っ直ぐだった。

誰かと比べてじゃない。

誰かに見せるためでもない。


“自分の矜持”のために、彼女は剣を振るっているんだ。


 


「……そっか。なら、俺たちはもう――」


俺も、構える。


レイと並んで、剣を持つ。


「立ち止まってる暇、ねぇな」


 


カイも、階段の上から顔を出した。


「ったく、勝手に練習始めてんじゃねぇよ。俺も混ぜろよな」


 


こうして俺たちは、夜の静けさの中で、また一歩、前に進み始めた。


避難民の未来のために。

そして、自分自身の誇りのために。

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