第3章 第6話「魔法少女、現る」
第3章『街と騎士団』
第6話「魔法少女、現る」
――ギルドに貼られていたのは、ひときわ目立つ“赤い紙”だった。
「これ……緊急依頼じゃねぇか?」
カイが眉をひそめる。
依頼掲示板の中でも、赤紙は「即対応が必要な案件」を示していた。
ただし、報酬も高い分、危険度も比例して上がる。
『北市場付近にて、小規模魔物の群れ出現。周囲の避難誘導および排除対応を急募』
「数は少ねぇみたいだが、場所が悪いな。市場は市民も多いし、ギルドの対応が遅れりゃ被害も出る」
「行くしかねぇな」
俺とカイは即決で顔を見合わせる。
レイは一瞬だけ紙に目をやると、無言のまま頷いた。
* * *
現場に着いたときには、すでに騒然としていた。
市場の一角から煙が上がり、あちこちで悲鳴が飛び交う。
「こっちだ! 人が……!」
「魔物が店の中に……!」
まだ鎧すら着ていない市民が、商品棚の陰から顔を出しては逃げ惑っている。
そんな中――
「フレアランス!」
鋭い少女の声とともに、まばゆい魔法の光が閃いた。
ドォンッ!
光の奔流が、屋根の上にいたゴブリンを吹き飛ばす。
「魔法使い……?」
俺が驚いて声を上げたそのとき、
煙の向こうから現れたのは、一人の少女だった。
年は……俺たちより少し下くらい。
ふわりとした金の髪に、鮮やかな赤と白の魔法装束。
ロッドを片手に、軽やかな足取りで瓦礫の上に立っている。
「市民の避難は完了! 魔物も、あと三体!」
その声は高く、よく通る。
だが、何より目を奪われたのは――
彼女の背に揺れる、大きなリボンと、魔力の輝きだった。
「おい……あれ、なんだ?」
「魔法少女だ」
クルトがぽつりとつぶやいた。
「リラ・ヴァレンタイン。セイントラ直属の魔導特務隊所属。……まだ十五歳だが、街でも知られた“天才”だよ」
「魔法少女、ねぇ……」
カイが感心したようにうなずく。
俺も見惚れてしまうくらい、その戦い方は華麗だった。
とはいえ、敵はまだ残っている。
「レイ、カイ! こっちの二体、俺たちで行こう!」
「了解」
「任せろ」
それぞれの武器を構え、俺たち三人は市場へ突入する。
* * *
――数分後。戦闘は収束した。
俺たちが倒したゴブリンの一体は、短剣を振り回す中型の個体だったが、連携でうまく仕留められた。
レイの影縛りがいいタイミングで入ったおかげだ。
そして、ラストの一体は、少女――リラが仕留めた。
「お疲れ様! 君たちが応援の新人さんだね?」
戦い終わって近づいてきたリラは、ぱっと笑顔を見せた。
間近で見ると、その雰囲気はまさに“魔法少女”そのものだった。明るくて、愛想が良くて――そして、少しだけ近寄りがたいほど完璧だ。
「あ、えっと……俺たち、昨日登録したばかりの……」
「知ってる! バジリスク倒した人たちでしょ? 話、聞いてるよ。すごいね!」
「あ、ありがとう……」
素直に褒められると、なんか照れる。
「これから一緒になることもあるかもだから、よろしくね!」
リラはそう言って、くるりと一回転するようにロッドを振った。
その仕草もまた、魔法のように自然で――
「あ、そうそう。今日の働き、ちゃんと副長に報告しとくから」
そう言い残して、少女は軽やかに歩き去っていった。
「……なんかすごかったな、あの子」
「可愛い顔して、中身が化け物ってやつだな」
カイの言葉に、俺は苦笑するしかなかった。
隣に立っていたレイは、じっとリラの背中を見つめていた。
何も言わないけど……その視線は、どこか鋭かった。
(もしかして、気にしてる……?)
そんなことを思ったけど、本人に聞けるはずもなく。
俺たちは、初めての“街での戦闘”を終えたのだった。
――そしてそれは、リラとの数奇な関係の始まりでもあった。




