第5話 対コンコルディア〜開幕〜
やばい、やばい、やばい逃げ道がなくなった。
いっそもうこいつを無視してこの空間の反対側─おそらく出口につながる道がある方まで走るか?
いやだめだ。
その前にあいつに殺られるのがオチだ。
「…」
殺られる前に殺るしかないか…。
「よし」
私がやることは4つ。
1つ─全力でドラゴンもといコンコルディアの攻撃から逃げ回る。
2つ─攻撃から逃げながら、いろいろな魔術をコンコルディアに向けて撃ってみて、有効そうな攻撃を探る。
3つ─これまた攻撃から逃げながら、コンコルディアの行動パターンを分析し、予測する。
4つ─行動パターンの分析と予測をもとにコンコルディアの隙を探り、隙が生まれた瞬間に有効打を最高火力でぶつける。
これだけだ。
これだけだ…が、これがなかなかできる気がしない。
「グルァァアアア!」
雄叫びとともにコンコルディアの前足が迫る。
ドゴンッ
「っと、あぶなっ!」
考え事をしている暇はない。
今私が、考え事をしている最中もやつは私に攻撃を仕掛けてくる。
走れ、走り続けろ。
ドバンッ
「よっ、と」
幸いなことにやつの動きは速くない。
「いまっ!」
【水球】
手始めに私は、コンコルディアの周りに大量の水の球を創造し、撃ち込む。
ドドドンッ
撃ち込んだ水球により砂煙が巻き上げられる。
【風よ】
風属性を纏った魔力を放出し、砂煙を晴らす。
「うっそ!」
はなから初撃で仕留めきれるとは考えていなかった。
水球がきかなかったのなら次は風球また次は闇球と次々に撃ってみて最終的に勝てればいいとどこか楽観視していた。
しかし、現実はそう甘くなかった。
「きいてない!?」
コンコルディアには確実に水球は命中していた。
けれども、コンコルディアの体にはダメージらしいダメージが見当たらない。
腐って脆そうなコンコルディアの体表にはわずかな傷すらもついてはいなかった。
「しまっ─」
ダンッ
「─っかは!」
油断した。
流石にダメージがないのは予想外だった。
そのことに動揺してしまった私はやつの尻尾の薙ぎ払いに気づくのが遅れ、避けきることが出来ずに吹き飛ばされた。
「いたい」
初めての痛みだった。
これまでの道中もコウモリとは何度も戦闘を行ってきた。
しかし、それは戦闘などとは到底いえない一方的なものだった。
だから私は、一度たりとも道中でダメージを受けることがなかった。
「これ、が、いたみかぁ。きつい、なぁ」
一瞬心が折れかける。
だれでも、痛いことをするのはいやなものだ。
でも、痛がったままここで動かずにいてはまたやつの攻撃がくる。
そしたらさらに痛いかもしれない。
動く、体は動く、問題はない。
「うご、け。たたか、え」
問題は、ない。
「よしっ。もうどうようなんてへまはしないよ。─だいにらうんどといこうか」
かくして、対コンコルディア第2ラウンドが始まる。