11話 闇夜の再会
暗闇。
布が被さっている温もりを感じてイチハは布団の中に居る事を自覚した。
「ここは……?」
「目が覚めたんですね、イチハさん」
イチハは声の方角へ向き直ると薄い月あかりに照らされた少女の顔が見えた。
冷たい顔、祭りで出会った時とは別人のように表情は無かった。
「四恩か、俺は一体どうして此処に」
そう言いながら節々《ふしぶし》の痛みで脳裏では想像できていた。
「貴方はこの道端で倒れてたんですよ。家の管理人さんが見つけて私が運んでもらうようお願いしたんです。傷の手当てはしたつもりですが痛みますか?」
「いや、大丈夫。ありがとう助けられたな」
「以前はやんちゃな妹の手当てをよくしていました。手が掛かる子なんです」
「今は何処に?」
「……奥平という男の護衛をしています。イチハさん、貴方も会ったはずです」
「……。」
イチハは喋れない。自分の素性も状況も知れている、敵対している親族が自分の目の前にいる。
「私は悩みました。街で手配書が出ているイチハさんを奥平や妹に渡すか、皇都の阿宮様に繋いでもらい助けてもらうか」
「どうするんだ、奥平の悪事も多少伝え聞いているだろ?」
「どちらにも。助けが早ければイチハさんは助かりますし妹の方が早ければ貴方は……」
「死ぬって事か」
罪悪感からなのか四恩はずっと目を合わせようとはしない。
「よくわかった」
「何がですか?」
「四恩が縛られている事がさ。自由に考えれば良いのにどちらに動いても怖いから運に身を任せるなんて」
「私を憎みますか?」
「いや、憎んでないよ。四恩を自由にしたい、今はそう思った」
「自由に、なりたいんです」四恩は夜空を見上げながら言った。「でも、妹のことを考えると...」
その時、廊下から扉の開く音と靴音が聞こえる。
扉を開いた人物は灯りを持って入室してきた。
「姉さん、ここに手配書の男がいるって?」
来たのは神楽、四恩の妹だ。イチハを見つけて冷たい視線を送る。
「間違いなく変態野郎だね、姉さん離れて。何か変なことされてない?」
「ふん、いま足りない妹の愚痴を聞いていたところだ」
お前もどうだ?と馬鹿にしながら身近に武器はないか視線を動かす。
「そんなわけないよね?」
神楽は刀を抜きイチハへ構えながら四恩に視線を移す。
「ね、ねぇ。本当にこの人を殺さなきゃいけないの?まずは話を聞いてみても良いんじゃない」
四恩は神楽にすがるような声で話しかけた。
「ダメだね。南の、いえ皇国一の大商人である奥平様を殺めようとしたんだもの。そうなればどれだけ国益を失うか。その罪は死以外ありえない」
聞く耳を持たない神楽、強く刀を握り直した。
「国益?帝国に尻尾を振って皇国を汚染させている張本人だぞ、お前だって見ているだろ」
「関係ないわ。誰だって大小あれど国を汚す。私たちは今を幸せに生きる事が出来てる」
「お前の姉はそう思っていない」
そう言い切りながらイチハは神楽を見つめ続けている。
「黙れ!!その耳障りな口を割ってやる」
神楽は刀を振り上げる、目をつむり下にうつむきながら嗚咽を漏らす四恩。
イチハだけは神楽をまっすぐ見つめ続けていた。
「こちらを見るなぁ!」
「私の剣を返してもらうわ」
背後からの声に驚き、神楽は振り向く。
部屋の入口には小林阿宮が笑みを浮かべながら立っていた。
「貴様ッ!」
「動くな」
背後から冷たく通る声が響いた。
リツ、小林に仕える忍が四恩の背後を取っていた。
四恩の首筋には刀が添えられており、場の支配権を握っている。
「四恩さんイチハを手当てしてくれてありがとうございます。貴女は私の命の恩人です。また、そんな貴女にこんな行いをして申し訳なく思っています。」
小林は頭を下げ礼を伝えた。
「私はイチハが無事であればこれ以上の成果は望みません。このまま退く、それでいかがですか」
「はぁ?そんな事許すと思うか!」
神楽は鼻息荒く、鋭い眼光で小林を見た。
「あなたには言ってません。四恩さん、如何ですか?私や彼に手を出せば、貴女の妹の命はないと思いなさい。それでもよければ先ずは私の首を刎ねるよう妹へ伝えなさい。」
「小林様、わかりました。早くイチハさんを連れて立ち去ってください」
「ありがとう。話が早くて助かります。イチハ動けますね?」
イチハは激痛に顔を曇らせながら立ち上がる。
「リツ、放しなさい」
「はい」
「姉さん……。ッチ、逃げられると思わないでね。大罪人のくせに」
「それは此方の台詞です。あの馬鹿な商人に伝えておきなさい、夜明けには軍を差し向けると」
そう言って小林、イチハ、リツの3人は夜の街を去っていった。




