迷宮都市オリイハラ
孤児院を出て約2週間、ようやく目的地へ着いた。王都を超えて西、ステイアイズ国の経済中心部、迷宮都市オリイハラだ。
この都市の特徴といえば神が創ったダンジョン、試練の迷宮があることだろう。
試練の迷宮とは、獣人の加護神である矜持と風を司るユリエド神が世界に5つ創ったと言われる迷宮である。
この迷宮内では強力な魔物が出てくる代わりに、クリアすれば迷宮から何かを授かるらしい。
授かるものは人によって全く違うものになると言われ、そのすべてがクリアした本人たちに合わせて造られた唯一無二のものだとか。
この迷宮の特殊さはここからだ。
迷宮の階層、深さは手続きの際に個々人に合わせて決まるらしい。
1人でいるならその1人を、パーティーで入るならそのパーティーの平均値を、一緒に入る人間によって階層が変わる。
最低値の10階層を基礎に、強ければ強いほど階層が増え、弱いならば減る。
このオリイハラで最も階層が増えたのは人族のハイヒューマンが一人で1か月かけて攻略した時の500階層らしい。
最近の記録では5年前、何処ぞの冒険者グループが80階層の迷宮をクリアしたとのこと。
ちなみにこの迷宮だが、俺たちが今から行く学園ではこれをクリアすることが最初の3年間の目標の一つになっている。
迷宮に潜る人類の力を測り、超えられる限界の難易度で創られ、そこを攻略できれば迷宮踏破の誇りと、その証拠となる『唯一』を授かる。
それを求める人類は多いが、実際に攻略できる人間は少なく、一度攻略しても2度目、3度目で天狗になった鼻が折られるとか。
挑戦し甲斐があるじゃないか。
さて、俺たちの目的地である学園へ向かう。
学園に入ってまっすぐな道をしばらく行くと広場と校門から見えた大きな城への入り口がある。
受験(正式名称は入学時試験らしい)までは後3日。孤児院から約2週間の旅路のため、トラブルがないようにと早めに出たことが功を奏したようで、受験の受付は空いていた。
俺たち3人は受付を済ませ、口頭での注意事項を聞いた。
どうやら寮の部屋は2人部屋になるらしい。
注意事項を聞いた後、これから住むことになる寮の場所と自室が書いてあるメモと寮のルールブックを受け取った。
そのメモに従いながら、寮までの道を歩く。
俺たちが受付をしたあの大きな城は本学舎、その両隣がそれぞれ西学舎と東学舎、奥側にあるのが本堂、その他、研究棟や実験学舎、複数の寮棟と食堂など、娯楽施設含め色々と詰まっているようで、街に降りずとも生活できるようになっているようだ。
思った以上にしっかりしており、周りを見渡しながら歩いていたら寮に着いた。
俺とハンスが暮らす男子寮とフィラソピアが暮らす女子寮は道を挟んだ反対側にあるようで、ハンスが鼻の下を伸ばしてにやけていたらフィラソピアがドン引きしていた。
普段ならそのまま頭を引っぱたいているが、人目を気にしたのか手を出さなかった。
どうやら、寮は学年によって入る場所が違うらしく、もう少しで授業が始まる時期でも上級生と顔を合わせることは無かった。
さっき受付で受け取ったメモの部屋番号は4・W・01。
4階の西側、01番という意味らしい。
ちなみにハンスは4・W・03。
俺の二つ隣になった。
この寮は北側と南側にそれぞれ階段があり、階段を繋ぐように大きめの通路がある。
その通路を基準に西側なのか東側なのか決めているようだ。
ちなみに女子寮も同じ構造らしく、フィラソピアは4・E・01だと言っていた。
フィラソピアと別れ、自分の部屋へ向かう。
エレベーターなんてものはないので階段を使い4回まで上がる。
普段から体力作りはしているし、孤児院での手伝いや日雇いの仕事などもやっているのでこの程度では息も上がらない。
前世とは大違いで健康だ。
部屋の前でハンスと別れる。
自分の部屋の鍵を開け、中に入って、元々少なかった荷物を置き、部屋を見渡す。
二人分のベッドに勉強机、クローゼットも別々であり、寮というよりも少し豪華なホテルのようだ。
おそらくは下級の貴族も使うからなのだろう、華美ではないが清潔感があり上品な内装だ。
ウィーン孤児院も決しておんぼろではなかったがここまで金をかけてなかったし、あくまで孤児院なので質素ともいえる設備だった。
QOLがしっかりとそろった部屋は最高だ。
贅沢を言えばもっと広くして一人きりで使いたいものだが、将来の楽しみにしておく。
あぁ、早くぐうたらと惰眠を貪る生活をしたい。
そんな空想に馳せながら荷物を整理していたら外が暗くなり始めていた。
やはり異世界だからなのか、それともここが日本ではないからなのか、この国には四季がなく、あるのは夏と冬のみ、春や秋のような季節はなく、暑いか寒いしかない。
今の時期は後冬、もう少したつと初夏に入り、学園での授業が開始される。
真冬と真夏は辛いので、寒すぎず、暑すぎないこの時期が一番過ごしやすい。
荷ほどきがひと段落し、休憩しようと息をついた所で扉が叩かれ、外からハンスがメシに行こうと騒いでいる。
俺は荷物入れを端に置き、靴を履いて扉を開ける。
部屋から出るとフィラソピアが待っていた。
女子寮に男子は入れないが、男子寮に女子は入れるらしい。
街に降りるか、学校内の食事処にいくのか、そんなことを相談しながら歩く。
初日で疲れていたこともあり、街にはおりず、学校内の食事処に行くことになった。
この世界の食事は不思議と日本にあるものが多い。
日本食があるわけではないが、それに準ずるようなものがあるし、十分おいしい。
個人的に食べるものに対する選り好みが強いからすごく助かる。
いざとなれば泥水だろうと啜れるし、残飯をあさって食えるものを判別するのもできる。
もう二度と味わいたくない味だった。
多少まずくとも、まともに食える飯であることに感謝できるようになったのはあの経験からだろう。
上手い飯と安心できる寝床は、それだけで幸せなのだ。




