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【外伝】元騎士の祈り

私はエルド・ウェイハ・アレサド。

元ステイアイズ王国、第2王宮騎士団副団長であり、名誉騎士男爵位を授かった平民出身の元騎士だ。

平民から騎士になるために、さまざまな冒険や危険な橋を渡りぬけ、28歳の時に騎士として雇われた。

雇われてからは配置された第2騎士団で王都内部の治安維持や護衛、王宮の門番などを務めて、王宮で働くメイドの1人と結ばれた。

そして最近、ついに年齢が50を超え、身体の衰えも隠せなくなってきたころに、騎士団長から呼び出された。


普段から騎士団の詰所にある団長室で仕事について話したりすることはあった。

故に、呼び出された先が王宮内、それも王の執務室に近い会議室であったことに困惑が隠せなかった。

胸に少しの不安を抱え、会議室に入っていくと、そこにいたのは王様と王妃様、そして第1王女様が、会議室の一番奥で腰掛けていた。

その周りにいるのは第1、第2、第3騎士団の団長たちと総括騎士団長、宰相など、国の重鎮のみが集まっていた。

頭の中で何かやらかしたことがないか必死に探しながら頭を下げ、用件を聞く。


つい先日、第1王女様が王都から3日ほどの場所にあるウィーク城壁都市にお忍びで社会見学へ行ったらしい。

その際に歓楽街の路地で強い魔力を持つストレートチルドレンがいたらしい。

たまに聞く話だ。

貴族が歓楽街などに遊びに行き、魔力持ちの平民を見つけ、雇い、育て、従者にする。

わざわざその子供の確保のために呼ばれたのか?と疑問を持ったところ、騎士団長から本題はここからだ、と言われた。


この世界で最も信仰されている2大宗教、シスール教とレドイラ教のどちらもが全く同じタイミングで信託を受けたらしい。


曰く、

――英雄が、群雄が必要となる時代が来る。

――なればこそ、群雄はただ一人の大英雄から始まる。

――ありとあらゆる非凡なる者が集まる時代となる。

――ある者は勇敢である。ある者は堅実である。ある者は誠実である。

――ある者は臆病である。ある者は冷酷である。ある者は卑賎である。

――ある者は寛容である。ある者は強大である。ある者は崇高である。

――大英雄はそれらの非凡を英雄へと開花させるだろう。

――大英雄は己が心に従い、強き意思と信念により成長する。

――人類よ、多種の種族、部族が揃う我が子らよ、今一度、手を取り合うときが来た。

――備えよ。備えよ。備えよ。

――魔物の王が目覚める。

――滅ぼしてはならぬ。滅びてもならぬ。

――かの希望が、大英雄が望むものは、星々の力をもって実現される。


この世界が平和な理由、魔物という人類にとっての絶対的な天敵を狩り、国を、世界を救うとも謳われる英雄。

子供の頃に遠目から見た、エルフのハイヒューマンの様な絶対的強者が新しく生まれたのだ。

そして気がついた。

なぜ警備が厳重な場所で、国の重鎮だけ集めた少人数でこの話をしているのか。


可能性があるのだ。

王女様が見たストレートチルドレンが、我ら人類の望んでいる英雄である可能性が。

そして王様は私に命じた。

王女様のわがままという形で孤児院の設立をすると。

そこの院長になり、本当に英雄なのか見極めろ、と。


それからは時間の流れが速く感じた。

孤児院は1月も経たず建設され、副院長としてついてきた妻と共に子供を説得して保護し、街の衛兵と連携しながら40人以上の孤児を強制的に捕まえた。

孤児の保護は約3ヶ月に渡って行われ、最後の1ヶ月間は一人も捕まらなかったため、今保護している孤児で全員である、と認識された。


孤児の合計は73人。

その内、10歳未満が36人、15歳を超えているのは19人だった。

魔力検査をしていないものが大半で、本来10歳の誕生日に行う魔力検査を進めるために吸魔水晶の貸し出しを要請したら、本当に英雄だった場合、王都にある王族や大貴族が使うものでないと測れない可能性がある、と言われた。

貴族や歴史の長い家では10歳になった際に魔力検査を一律で受ける義務がある。

これは魔力をため込みすぎないようにするためだ。

自分の器以上の魔力をため込んだ状態で吸魔水晶に触れると魔力が暴走する危険がある。

魔法を使えるようになった者なら抑え込めることはできるが、魔力に目覚めてないものが暴走すれば本人の命が危なくなり、魔力量によっては周囲への被害もバカにならない。


その為、5~6年ほどかけて少しずつ王都の大聖堂で魔力検査を実施するらしい。

暴走を避けるため、年長者から検査をする。

英雄はまだ10歳以下のはずなので見つかるのは後になるだろうが、英雄候補は保護してあるし、焦らずに進めていく、というのが上層部の考えらしい。

事を急いで進めすぎて墓穴を掘るようなことがないように徹底させ、長くても確実に大英雄を見つけ出し、ついでに非凡な者も探して英雄候補として育成しよう、という腹積もりらしい。


私が院長を任されたウィーン孤児院でも特異的な子供が何人かいる。

それは種族の違いだったり、身体的な特徴だったり、様々な理由で良くも悪くも目立ってしまう子供達。

例えば、エルフの血を引いているフィラソピア・リア・ゲルダ、孤児院ではフィーラと呼ばれることが多い女の子。

この子の両親は冒険者で、エルフの中でも名が売れた実力者だったがこの街の近くで子供を助け、死んでしまった。

その後、この子はエルフの街に帰れず、ストレートチルドレンのグループに拾われ、暮らしていたようだ。

どうやら母親が高貴な出らしいが、父親と駆け落ちしていたようだ。

苗字なども父親のものになっているため生家はわからなかった。

異国の出身であることもあって捜査は難航している。

他だと、この街では珍しい黒髪に黒い目のハンス。

保護する前はグループのリーダーとして18人ほどの集団を率いていた。

まだ10歳に届かない子供だが、どこで習ったかわからない教養を持ち、自意識がはっきりしているように思う。

家名はなかったが名前自体は親からもらったと言い、昔から持っているという毛布はしっかりとした作りと高級な素材だった。

おそらくどこかの貴族の捨て子なのではないかと思う。

それも特殊な事情がある家系の出身だろう。

ハンスやフィラソピアを含む、貴族の家系かもしれない子供たちはすべて報告し、王宮主体で捜査が行われている。

下手に後から血縁関係が証明されると、どんな形で利用されるかわからないため今のうちに手を打つようだ。

一言に捨て子と言えど様々な事情があるだろう。

どうかこの子たちに救いがある形で返事が返ってくることを祈る。


フィーラやハンスは元からグループにいたこともあり、目立ちはするが特にトラブルはない。

私や妻が問題視しているのはグループに属さず、一人でいる子。

その子は衛兵と私でどうにか確保し、最後に孤児院につれてきた。

名前がなく、グループにも属さず、ただ一人で保護期間の半分を占める1ヶ月間、衛兵から逃げ延びた男の子。

妻が、エルウィードと名付けたその子は、特異というよりも異質、と言ったほうが正しいように感じる。

ストレートチルドレン時代からこの子の存在は浮いていたらしく、他の子から聞いたら一人で残飯と共に文字を読んでいるおかしな子、近寄ってはいけない裏通りをなわばりにして生き延びている怖い人、気が付いたら消えている子、など散々な言われようをするエルウィード。

ただ、フィーラ含む一部の子供はエルウィードに助けてもらったという。

どうやら昔、子供をさらって奴隷にする人攫い組織がこの街にいたことがあったらしい。

エルウィードに好感を持っている子たちはその人攫いに攫われ、売られる寸前だったらしい。

その時、エルウィードが子供を助け、組織を街から追い出したらしい。


今でも小さな子供が、数年前にそんなことができるのだろうか。

確かにこの子は非凡であろう。

身のこなしは柔軟で、直感も鋭く、小細工もうまい。

町の衛兵だけでは見つけることが出来ても捕まえられず、元騎士団の私が呼ばれ、それでも1週間かけてようやく捕らえた子供。

だがそれだけだ。

逃げに徹するならばともかく、10歳未満の子供が大人と戦うことは難しい。

そこらの賊なら隙をついて1人か2人なら倒すこともできるだろう。

だがしかし、人攫いの組織を追い出し、子供を無傷で助ける。

そこまでの成果を10歳未満である子供が達成する、となると不可能であると言わざるをえない。

しかし、もしもこの子が、エルウィードが神のお告げにあった大英雄であれば、ありうる。

このことを上層部に報告したところ、王女が見た子供は黒髪だった、と返信が来た。

ならば、王女が見た魔力持ちの孤児はハンスであり、エルウィードではないだろう。

エルウィードは薄暗い金髪で、どれだけ汚れても黒髪には見えない。

ならばこの子は単に非凡という言葉で片付けられるような子供なのだろうか。

否、王女が見た孤児が大英雄である確信もない。

しかし、平民の子が貴族並みの魔力を持つことはイレギュラーの中のイレギュラー。

人口が多い人族の国でも2~3年に1人程度、それも貴族や歴史ある家の末裔であることが前提だ。

名無しの孤児として生きていたのであればありえないことだ。


町の衛兵に何か知らないか聞いてみたりもした。

他の孤児に関しては情報が出てきたりする。

元はどこの子供だったのか、なぜ捨てられたのか、どこからやってきたのか、ある程度の話は聞ける。

しかし、エルウィードに関する話は全く出てこなかった。

あまり目立つような容姿でないこともあり、静かにしていれば確かに特別な話は出てこない。

しかし、孤児の保護が始まるまで、いつからいるのか、どこにいたのか、なにをしていたのか、衛兵からは1つ足りとて情報が出てこなかった。

裏社会の人間なのかもわからず、聞きかじった人攫いの話を聞いてみた。

人攫いに関しては別の裏組織との抗争でつぶれた、というのが衛兵たちの認識だった。

騒ぎを聞きつけ、準備を整えてから踏み込んだところ、人攫いの一派は殺害されており、そのうちの何人かは逃げ出したところを捕まえたらしい。

その捕まえたものからの証言で抗争であることが発覚、当時は特に火種などもなかったため奇襲が上手くいき、壊滅させられた、という認識らしい。

腑に落ちない点は多い。

別の裏組織の人間に被害が出ていない事、エルウィードがその場に居たのかもわからない。

原因すらなく急な抗争を始めるような裏組織は危険すぎる故に排除されやすいが、それ以降大きな抗争はないとも聞く。


…私がどれだけ考えても仕方がないことだ。

どちらにせよ私にできることはただ、見守り、育てることだけなのだ。

神よ。

我らが人類の加護神、運命と炎を司りし神よ。

祈ることしかできぬ無能者に子供たちを救う機会をお恵みください。

血にまみれたこの手で未来を生きる子供たちを支えることをお許しください。

どうか、どうかこの愛おしい子供たちに幸福があらんことを。


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