一歩目
院長と共に扉をくぐる。
その先には男性の聖職者と直径5メートルほどの大きな水晶玉があった。
男性の聖職者から魔力検査の方法を説明された。
決して難しいことはなく、水晶玉に両手をつき、目を閉じて集中する。
これだけの事だそうだ。
院長に言われ、説明の通りに両手をつき、目を閉じた。
そうすると不思議なことに身体の中心から何かが溢れ出てきそうになる。
俺は驚きながらその感覚を制御しようと必死に集中する。
溢れ出てきた何かを身体の中心から右足、左足、左手、頭、右手、と身体の中で巡回させる。
魔力の巡回に集中し、少したって安定してきたタイミングでもう良いですよ、と声をかけられた。
目を開けてみると、透明だった水晶玉が黒と青、黄色、緑、茶色と鮮やかに色が混ざり合っていた。
それを見た男性の聖職者がまさかこんなに多いとは、と呟き、院長は俺に、お前も魔力持ちだ、と言ってきた。
俺は、俺が魔法を使い、惰性を貪るための第一歩を踏み出したのだ。
男性の聖職者から魔力量について説明をされた。
どうやらこの水晶玉は吸魔水晶と呼ばれるものらしく、これを触っている間は魔力が吸い取られていくらしい。
その性質を利用して、まだ眠っている魔力を無理やり吸い出し、魔力量を測る。
もういいですよ、と声をかけられたのは魔力が収まったことで魔力の大半が吸われたと判断したため。
魔力を使いすぎると気絶してしまうらしい。
測った魔力量は下級上位の貴族レベルらしい。
だが、俺は魔力を吸われている最中に制御を確立してしまった。
その上、あくまで体感にはなるが吸われた量は全体の3分の1ほどだろう。
この魔力量が多いのか否か、様子を探るためにも院長が触るとどうなるか見たいと言ってみた。
そうしたら院長は、魔力が制御できているから触っても意味がない、と言われた。
自分から魔力を込めることはできるらしいが、ここに置いてある吸魔水晶は王族だろうと測りきれる貴重なもので、使うには人数分の許可が必要らしく、見せてはもらえなかった。
院長の代わりに男性の聖職者が答える。
この色は魔力の特色です。
詳しいことは学園で習うことになりますよ、と。
―――学園で習うことになる。そう、確かに言った。
その言葉はつまり、俺も学園へいける、ということだ。
それは、俺が魔法を初めて見た時に掲げた、魔法を使い功績を残し惰性を貪り引きこもる、ということに。
この世界で一番初めに目指した、生き残るための目標が、そこにたどり着く道のりが、ほんの少しだけ、ただ確実に、初めて現実味を帯始めたことを意味している。
思えばこの世界に来てから死ぬことが隣り合わせだった。
前世からは考えられないようなゴミ漁りに物乞い、屋根がなく風が通り抜ける寝床、他のホームレスから口減らしに狙われ、人売りに捕まっては逃げ、孤児のグループにも入れず、顔を知っている人間はすぐに死ぬ。
日に日にすり減っていく精神と論理感。
生命の危機からくる焦燥感。
身体が動かなくなっていく感覚と、野垂れ死んで衛兵に回収されるか、裏に持っていかれる死体を見て恐怖した。
孤児院に入ってから薄れはしたが、前世と比べたら月と鼈と言える環境で。
苦汁を、感情を抑え込み、唯一の希望だった魔法への夢を見て、それがようやく幻想から現実へと変わったのだ。
これが、一歩目で、区切りなのだ。
俺が今世で、名無しのストリートチルドレンから大魔法使いになって幸せに生きるための、前世と今世を切り離して、ウィーク孤児院のエルウィードとして生きて行くための一歩目を、俺はようやく進んだのだ。




